『ヒトラー ~最期の12日間~』

この前の金曜日に『ヒトラー ~最期の12日間~』を見に行きました。
以前からこの映画の存在は知っていましたが、会社で夕方6時頃Yahoo!で調べものをしていた際、偶然上映されていることを知り、また余り長く上映されなさそうだったので勢いでその日の7時30分の部に行って見てきました。
内容は
ヒトラー ~最後の12日間~ DOWNFALL
彼の敵は世界

世界震撼。
全てを目撃した秘書が今明かす、衝撃の真実。
本年度アカデミー賞外国語映画賞ノミネート
ヒトラー最後の秘書が半世紀を超え封印を解いた戦後最大のタブー。
誰も描けなかった驚愕の真実に世界が揺れた。2005年最大の問題作、遂に日本上陸。
あなたもその目撃者になる!
ヒトラーの晩年、常に彼の傍らにいた秘書ユンゲと出会ったことはショックだった。53000冊にも及ぶ関連書籍はどれも 彼のある側面しか語っていないことが分かったからだ。 本当の歴史を理解するために、そして隠蔽された真実を多くの人に伝えるために私はこの映画を撮ったのだ。ーオリヴァー・ヒルシュビーゲル監督(「es」)
全世界激震!
★戦後初めてヒトラーを注視した映画。実に力のある映画だ。NYタイムズ紙
★ドイツはユダヤ人大虐殺の歴史を取り繕い美化している。エルサレムポスト
★殺人鬼の人間性を振り返る必要などどこにあるのだろうか。日刊ベルリン
★切に忘れたい事実を強烈に映し出す偉業は誰しもができるものではない。素晴らしい。デルスピーゲル紙
★我々はこの映画を“良い映画”として迎える時期にいよいよきているのかもしれない。デイリーメール紙
★この監督はあらゆる意味で古臭い伝統を打破している。観るべき1本。ソウルタイムズ紙
ヒトラー最期の12日間を克明に綴った本作は本国ドイツで公開されるや、戦後初めて明かされる衝撃の事実に 人々の論争は激化、映画の枠を飛び越え公開自体が一つの“事件”として大きな社会現象を巻き起こすこととなった。 同時に『シュレック2』『トロイ』を抜き去る超大ヒットを記録。また、現在公開中のアメリカではドイツ映画史上最高の館アベレージを叩き出し、まさに歴史的ヒットとなっている。 ドイツアカデミー賞をはじめ、数々の賞を総ナメにし、話題性のみに終わらない圧倒的な“映画力”で世界の批評家 たちに絶賛を浴びた。

といったところのものです。(説明長すぎ?)
3時間近くという長い映画ですが、中だるみすることなく一気に進んでいきました。
今回の映画を見て思ったことが3つありました。
まず一つめですが、日本が太平洋戦争末期に本土決戦をせず、もちろん連合国軍もオリンピック作戦を発動しなかったのはなんと幸せなことかということです。
今回の名前の通りヒトラーの最期の12日間は、ソ連軍とのベルリンでの市街戦の中のものです。描写も細やかだったので、自分があたかも当時のベルリンに立っているかのようでした。その中で理不尽にいろいろベルリン市民に対しての過酷な試練を見ていると、喉が渇きざらつき、ほこりにまみれてしまったかのような気分でした。そういった事態を起こしてしまったナチスドイツとぎりぎりでそれを回避した大日本帝国。極限までいってしまったのはドイツ人の国民性なのか、それともヒトラーをはじめとする首脳部が自分たちから始めた運動・体制だけに、ドイツという国そのものになってしまい、滅びることと自己の死が同一化されてしまっていたからなのか?
対して日本の昭和天皇陛下は祖先から受け継いだ日本という国を守り、子孫に伝えていかなければならないという使命感が、8月の御前会議での発言となったのだろうか?
いずれにせよ、寸前のところで滅亡の縁の手前でとどまることの出来たご先祖様たちには感謝しなければいけないですね。
二つめはヒトラーの実像(まあ、実際あったことはないので多分ということですが)がきちんと描かれているなあと思いました。ヒトラーというと極端に描かれることが多いですが、この映画では多様な側面が見られます。自分たちの周りの人間を考えてみても、優しい面もあれば厳しい面もあればといろんな面を持っています。それはヒトラーといえでも同じで、だからこそなぜあそこまでの事態になってしまったのかと改めて思ってしまうわけです。また、役者さんがドイツ人だというのも大きい。私はNHKの映像の世紀が好きで、何回も見たりしていましたが、そこでのヒトラーの演説シーンのしゃべり方とそっくりでした。これはやはり英語でなくドイツ語であるべき(イントネーションが違いますから)だなあとおもいました。ついでにブルーノガンツのヒトラーを筆頭にヒムラー役の人とか周りの人たちもすごく似ていてそれもまたすごかったです。さらに周囲の人たちの反応、すなわち妄信的に信じる人、見切りは付けているもののそれは出さないようにする人、現状に絶望し退廃的になる人などいかにもと思え、さらなるリアルさを醸し出していました。
三つ目はありのままを見て極端にぶれない精神の平衡こそが一番大事だと言うことです。二つ目にも繋がりますが、ヒトラーの人間性を描いたこの作品は、批評家からも賛否両論で、場合によってはただの人として描くことそのものに反対している人がいます。私も別に本人に会ったことがないので実像はわかりませんが、でもしたことがあまりにもひどいことだったのでその人物もやはり非人間的だと言うことは間違いだと思います。そういえば太平洋戦争の当初、アメリカは日本軍の戦果に驚き「日本人はジャングルの中で自由自在に動き回れ、ほんの少量の食料のみで戦い続けられるファイティングマシーン」みたいに言っていたそうです。やがて、捕虜が増え兵士の日記とかが押収される中で、日本人といえでもやはり我々と同じ人間だみたいな認識に変わったとのこと。
ヒトラーについても同じで、普通の人間の面を持った彼がなぜあのようなことを引き起こしたのか?そこに焦点をあてないとそれこそどこかの国がよく言う「歴史を鑑として」にならないと思います。そのためには冒頭にも書いた「ありのままを見て極端にぶれない精神の平衡こそが一番大事」だと思うわけです。ヒトラーは逆に極端にぶれた精神があり(映画でも描かれていました)、その極端に触れた部分が時代の空気と合致し、おそるべき事を巻き起こしたんだと思います。
それは映画では直接描かれていませんでしたが、自分が考えるに
1. 当時のドイツは第一次大戦の敗戦後の状態で敗北感にうちひしがれていた
2. 超インフレと高い失業率で生活に対する貧窮感、絶望感があった
2’ 古くからヨーロッパにあるユダヤ人に対する偏見が、金融業などを営み裕福に見えたユダヤ人に対するやっかみとなっていた
3. ワイマール体制になり、確かに民主的になったものの生活は一向に改善されず、閉塞感が満ちあふれていた
4. つい最近までのドイツ帝国時代、少し前のプロイセンでの鉄血宰相ビスマルクの強力な指導力にたいする郷愁
があり、それがヒトラーの掲げる
A.ベルサイユ体制の打破
B.責任ある指導者の独裁による社会の発展
C.民族主義(アーリア人優位)と、ユダヤ人迫害
とうまく合致し、ミュンヘン一揆など、行動には首を傾げつつも、その熱気の渦にドイツ人は巻き込まれていってしまったのではないでしょうか。
つまり、こういった熱気に身をゆだねることなく、「ありのままを見て極端にぶれない精神の平衡」を保っていくことが、今後こういったことを二度と起こさないことに繋がるのではないでしょうか。
そんなことを考えさせてくれる映画でした。

「『ヒトラー ~最期の12日間~』」に18件のコメントがあります

  1. ヒトラー 〜最期の12日間〜

    05/07/09 渋谷シネマライズにて初日鑑賞。
    話題作ということもあって、立ち見が出るほどの人でした。入場までの待ち時間まえにいた年配の御仁と談笑。
    自分は一人だったので残り数席のところで座ることができました…

  2. ヒトラー 〜最期の12日間〜

    観ようと思っていたこの『ヒトラー 〜最期の12日間〜』にやっと行って来ました。
    普段はシネコンで映画は観てるから、座席指定じゃない映画館は久しぶり。観たのは平日の昼間だったのに、結構混んでいて、入場前に並んだことや席を見つけるのにちょっとまごまごしてしまったのも、だからすごく久しぶり。
    さて映画の方だけれど、もっとヒトラーの内面に迫るのかなあと思っていたら案外そうでもなかった。敗北に追い詰められていくその過程で、イ…

  3. ヒトラー 〜最後の12日間〜

    渋谷のシネマライズで「ヒトラー〜最後の12日間〜」の映画を見てきました。
     
    まず第一に思ったことは、主演のブルーノ・ガンツがあまりにも、ヒトラーに似ていて正直笑った。笑うべきではないが、似すぎ。映像の世紀のDVD等で実際のヒトラーを見たことがある…

  4. ヒトラー 〜最後の12日間〜

    市原悦子主演「家政婦は見た!」ではなく、
    「女性秘書は見た!ヒトラーの真の姿を!!」
    映画の日、夜の部。この日4本目で最終。
    「ロボッツ」、「ポケモン」の2本のアニメと、オバカ人形劇「チーム★アメリカ」を鑑賞後の歴史映画。
    茶化したような書き出しで…

  5. 「ヒトラー ~最後の12日間」彼も普通の人間だった

    「ヒトラー ~最後の12日間」★★★☆
    ブルーノ・ガンツ、アレクサンドラ・マリア・ララ主演
    1945年4月20日
    ソ連軍の砲火が
    押し寄せるベルリン。
    敗戦を疑わない者は
    いない状況で
    史上最も有名な独裁者とその
    側近達の12日間。
    彼がヒトラーであること……

  6. ヒトラー〜最期の12日間〜

    毎日毎日、研究計画書のことばかり考えていたので、一時の息抜きのため映画を見てきた。
    今回見たのは、
    「ヒトラー〜最期の12日間〜」。
    公開前から気になっていた、この映画。ドイツ人が戦後60年を経てタブーを犯してヒトラーを描いたという触れ込みで少し気になってい…….

  7. ヒトラー 最期の12日間

    彼の敵は世界 川崎チネチッタに「ヒトラー 〓最期の12日間〓」がやってきたので早速見に行った。 僕はヒトラーというのは教科書や歴史番組で知る程度で、アメリカの…

  8. 殺人鬼ヒトラーの内面を描く◆『ヒトラー 〜最期の12日間〜』

    8月11日(木)名演小劇場にて
    2004年2月に、私は『アドルフの画集』という映画を観た。独裁者になる前の青年時代のアドルフ・ヒトラーは絵を描くことが好きで、ある画商との出会いによって一時は画家を目指すのだが、次第に政治運動に傾倒して行った…というストーリーで……

  9. 「ヒトラー~最期の12日間~」

     まったく予備知識なしで観に行ったのだが、少し登場人物について知っていた方が楽しめそうだ。
    参考:
     ヨーゼフ・ゲッベルス
     マルティン・ボルマン
     ハインリヒ・ヒムラー
     ヘルマン・ゲーリング
     アルベルト・シュペーア
     フリードリヒ大王

  10. ヒトラー 〜最後の12日間〜原題「Der Untergang」=「没落・破壊」

    重要かつ忘れてはならないのは、彼の政権が革命やクーデター、ましてや他国政府の傀儡ではなく、民主主義の正式な手続きである選挙によって選ばれたということだ。※
    ※:このことについては作品中で、ヒトラーやゲッペルスゲッベルスが同様な意図の発言をしている。
    ■『ヒトラー 〜最期の12日間〜』 公式サイト
    原題は「Der Untergang」=「没落・破壊」(独語) film.de
    ヒトラー 〜最後の12日間〜 – goo 映画 − あらすじ�…

  11. 映画: ヒトラー 最期の12日間

    監督:オリヴァー・ヒルシュビーゲル
    製作・脚本:ベルント・アイヒンガー
    出演:ブルーノ・ガンツ/アレクサンドラ・マリア・ララ/コリンナ・ハルフォーフ
    『ヒトラー 最期の12日間』オフィシャルサイト見終わってしばらく、久々に「いい映画だなぁ・・・」と感慨に浸った……

  12. 映画『ヒトラー最期の12日間』(Der Untergang)感想B面

        以前にも掲示板で話題になりましたが。 過日、アントニー・ビーヴァーというイギリスの軍事史家が、ベルリン最終戦についての超力作ドキュメンタリー作品を発表して大いに評判となりました。単なる事件の記録にとどまらず、この戦場におけるドイツ側、ロシア側それ…..

  13. 『ヒトラー〜最後の12日間〜』

    8月下旬、京成ローザにてサークルの後輩と一緒に観に行った作品。
    初日だったせいか、客席はほぼ満席で、前の方に座らざるをえなかったのが残念だった。こういう難しい映画は、後ろの方で客が少ない時にゆったりと思考をこらして観るのがいいと思った。

  14. 大学で「ユダヤ人の歴史」を太古からまさにヒトラーの時代まで
    通年で講じたことがあります。
    まさにご指摘のことを含め、話しました。
    フランクルの「夜と霧」もその関連で・・・
    あのワイマールの時代が生んだ、文化、科学の達人が
    戦後アメリカを一流の大国にのしあげたのですが、
    ワイマール研究もいつも負の側面でしか語られませんが・・・
    アインシュタイン、ドラッカー・・・
    また貼り付けでこのブログの遺産も紹介してください。

  15. 文武両道さん
    コメントありがとうございます。
    こちらの記事は、まだ皆様にこれだけご愛顧される前に書いたのですが、結構反響があった記事です。当時トラックバックをたくさん頂きました。
    ドイツがここに至る前には、ドイツ帝国のヴィルヘルム2世の存在も忘れてはならないと思います。彼の英雄的冒険を好む姿勢が、どのようなことを引き起こしたか。ハプスブルク家、ロマノフ家は、どのような変遷を辿ったか。そこに想いを馳せるのも良いかと思います。
    第一次世界大戦開戦時ヴィルヘルム2世の演説です。
    ドイツ国民に告ぐ。
     帝国創建以来43年の歳月を通じて、朕と朕が祖宗は、世界平和を保持し、平和裡にこの国の強力な発展を促す事に邁進尽力してきた。しかし、敵は我らが労苦の結果を妬んでいる。
     東や西で、また海の向こうで見え隠れする敵意に対して、我らは今まで責任と権威の意識から耐え忍んできた。だが今に我らは謗られる事となるだろう。敵は望んでいよう。我らが手を拱いて、敵の邪悪な奇襲の準備を看過することを。また敵には耐えられないであろう。大国としての名声を護り、権威と名誉の浮沈を我らと共にする盟邦の為に、我らが決然たる忠義を誓うことに。
     されば剣が決断しなけらならない。平和の最中、敵は我らを襲撃するのだ。なればこそ起ち上がれ!武器を執れ!動揺や躊躇はこれ全て祖国への背信となろうぞ。
     祖先が築き上げたこの帝国の興廃がかかっているのだ。
     ドイツの権威とドイツの存在がかかっているのだ。
     我らは兵馬の尽き果てるまで戦い抜く覚悟だ。そして我らは敵の集団に対するこの戦闘を勝ちぬくことであろう。ドイツが団結する限り、この国が敗北したことなどかつてなかったのだから。
     祖先と共にかつてあり、そして我らと共にこれからもある、神と共に進め。
    ヒトラーのズデーデン地方進駐、ポーランド電撃戦の時を彷彿とさせる言葉です。
    「今日、人類文化について、つまり芸術、科学および技術の成果について目の前に見出すものは、ほとんど、もっぱらアーリア人種の創造的所産である」
    この言葉にドイツ人が熱狂したのは、むべからんと思います。結局ヒトラーは突然変異として生まれた人物ではなく、誰しも持っていたある部分が極大化した人物だったと思うのです。(ちなみにヴィルヘルム2世は亡命後ナチスにシンパシーを感じ子供を入党させるほどでしたが、ナチスの態度はつれなく、微妙な距離感が残ったそうです)
    そしてそれはドイツのみならず、世界のどこで起こりうることだと。
    なので、自らを尊ぶのは良いとしても、同じように相手のことも尊び、独善に陥ることなく、常に聞く耳を持つことの大切さが改めて身にしみます。
    今、マスコミ等の働きで、国民が向く方向があまりにも単純に動いてしまっている。それが、とても心配です。WWⅠ前夜の時、ナチスの時代、そんな空気が溢れていたわけですから。

  16. 「自らを尊ぶのは良いとしても、同じように相手のことも尊び、独善に陥ることなく、常に聞く耳を持つことの大切さが改めて身にしみます。
    今、マスコミ等の働きで、国民が向く方向があまりにも単純に動いてしまっている。それが、とても心配です。」
    慶應への応援にしろ、
    現在の政治状況への対応にせよ、
    管理人さんの言葉に重みを感じます。
    私自身、
    自分の言いたいことを言うことだけに熱くなる傾向のあるなか、
    説得力のあるコメント、
    深く受け止めます。

  17. 文武両道さん
    コメントありがとうございます。
    いつもながらの過大評価、申し訳ございません。
    そうなることが理想ではありますが、まだまだその域には達していないので、これからも精進して参ります。

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