NHKスペシャル 日本海軍 400時間の証言 第三回 戦犯裁判 第二の戦争  を見て

いよいよこのシリーズも最終回です。いつもの通りまずは番組のHPのご紹介から。

戦後行われた極東国際軍事裁判いわゆる東京裁判。戦争指導者として文官一人、陸軍関係者6人が絞首刑となったが、海軍関係者の被告は終身刑。その後釈放された。090811_a
「海軍反省会」では、海軍という組織を守るため、水面下で海軍トップの裁判対策を組織的に行っていた事実を詳細に語っている。勝者の裁きに対抗するため彼らが行った活動とはどのようなものだったのか。
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海軍が解体された直後に出来た組織、第二復員省。海軍の頭脳と言われた軍令部の参謀の多くが戦後ここで裁判対策を担った。戦争の責任に海軍の中枢にいたエリートたちはどのように向き合ったのか。
反省会で交わされた当事者たちの議論を通して、「戦争責任」とは何か、「歴史」とどう向き合うかを考える。

今回の番組は開戦時の海軍大臣であり、後に軍令部総長も兼ねた嶋田繁太郎大将が東京裁判で死刑を逃れ終身刑となり、後に釈放される場面から始まります(そういえば、逆に死刑判決となった武藤章元軍務局長がその後の嶋田大将の笑い声が気になったと何かの手記に書いていました)。
この東京裁判を始め、各種戦犯裁判で海軍省から名が変わった第二復員省、通称二復、そしてそこに多く所属することになった軍令部の参謀たちがありとあらゆる対策を行っていたことを証言を交えて紹介しているわけです。
その根本方針は、いかに責任の所在を上まで上げさせないか、言い換えれば現場の責任として押しとどめるかにありました。究極的には「天皇陛下に戦争責任を遡上させないよう」というところから始まり、そこに帰結しないためにもなるべく下の方で責任を納めたいというのが考えです。
戦争犯罪にはこのとき大きく分けて二種類のものがありました。平和に対する罪と通常の戦争犯罪、すなわち人道に反する罪です。平和に対する罪は、開戦を決断した段階ですでに上層部の有罪は免れません。(もっとも、戦争とは双方がいて起こるもので、一方的にどちらかが悪いとは決められないはず。また、人道に反する罪も戦勝国側が裁かれることは殆どありません。これが報復裁判と言われるゆえんです)
これに人道に反する罪まで背負ってしまっては、上層部の責任は極限まで高まってしまう。なので、捕虜の処刑など人道に反する怖れのあるものは軍令部の指示とならないような工作を多々、組織的に行っていたというお話しです。
まずこれを見て感じたのは、天皇陛下の御名を使い統帥権を弄んだ人たちが、天皇陛下の護持の美名のもと自己保身に走ったといった印象です。どこまで天皇陛下を隠れ蓑に使おうとしていたのかと。そういえば幕末の時代、尊皇を掲げていた志士たちは、その当の天皇陛下のことを「玉」と隠語で呼んでいたそうです。必要以上に天皇陛下の御名を語る人たちは、本当に天皇陛下を大事にしていたのかと思うのです。
但し、一方で組織防衛上、上を守る必要があるのもわかります。上が全否定されると言うことは、とりもなおさずその組織全てが否定されることにつながります。ここは国の根幹である軍という組織と、厳然たる元首である天皇陛下を否定してしまうと言うことは、日本という国そのものを否定することに繋がり、戦後の復興どころではない話にもなりかねません。例えば今のイラクを見ると無政府状態という言葉がしっくりきますが、10年前は良い悪いは別にしてフセイン大統領の下、中東の一強大国としてイラクはあったわけです。今ある統治機構を完全になくしてしまう怖さが表れています。
つまり道義的、倫理的にはまったくもってどうかと思う行動であり、組織論・国を守るという意味ではやむを得ない部分があったと言えると思うのです。
なので、問題としては上層部の人たちのその後の身の処し方だと思うのです。
例えば今村均陸軍大将はラバウルで終戦を迎えた後、オーストラリア軍の裁判で禁固10年の判決を受け、巣鴨プリズンに収容されますが、それでは南方の戦犯収容所で苦労している部下たちに申し訳ないとマッカーサー元帥に直訴し、南方に移送してもらい、釈放された後は、自宅に謹慎室を設けて反省の日々を送ったと言います。そういったような心持ちを持つことこそが大事だったように思えるのです。
司令官と参謀、決断を下す責任者と、それを補佐し頭脳を駆使してよりよき方向に導く存在。その関係の難しさを感じました。「菊と刀」で日本は「恥の文化」と表現されています。恥を知る文化だと。先の戦争でも恥を知る人もいれば、失礼ながら知らない人もいました。今の世の中でもそうですが、割合は更に変わってきているような気がします。自分もちゃんと「恥を知っている」のか?自問自答してみると、まだまだ心許ないと思います。高杉晋作の辞世の句で、望東尼が継いだ下の句。一部では評判が良くないですが、自分は好きな句です。
「棲みなすものは心なりけり」
結局は心なのでしょう、何にしても。

「NHKスペシャル 日本海軍 400時間の証言 第三回 戦犯裁判 第二の戦争  を見て」に2件のコメントがあります

  1. 文武両道さん
    コメントありがとうございます。
    今回のシリーズは、海軍の人の生の声が聞けたというところで、大変興味深い内容でした。但しテレビ番組なので仕方がないのですが、発言の部分部分を端折っているので全体像がわからなかったり、其の議論のその後の進展はどうなったのか気になりました。いつか、その発言の完全版を本にでもしてもらえたら、是非読んでみたいと思いました。

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