多事争論 -「ユニクロ型デフレで日本は沈む」を読んで年の瀬に思うこと

今年もあと残すところ僅かとなりました。
なかなか時間が取れないので今日やっと文藝春秋新年特別号の「「ユニクロ型デフレ」で日本は沈む」を読んで、正直驚きました。エコノミスト、経済ジャーナリストを名乗る人がこういってはなんですが、とんでも本のような類の論説を、それも文藝春秋の表のページに掲載するとは!
なぜ日本のデフレはこんなにひどいのか?というところでこんな会話がなされています。

ここまでデフレが進んだのは、いわば日本がグローバル化に過剰に反応してきたからだといえると思います。適応は日本のお家芸ですからね。それを過剰に後押ししたのが、2001年から始まる小泉改革だった。
小泉改革は規制緩和を進め、市場原理主義を進め、日本にグローバル・スタンダード主義を持ち込みました。その結果、日本はかつてない競争の激しい社会になりました。その過程で起こったことは、すべてデフレに直結しています。安い労働力を求めて海外に生産拠点を移せば、失業者が増えます。失業しないまでも、日本の労働者は外国の安い労働力と競合関係に入りますから、賃金は増えない。また、企業はコスト削減と柔軟な生産調整を実現すべく、正規雇用を非正規雇用に切り替えていく。それが雇用の不安定化と低賃金化にますます拍車をかける。低賃金に甘んじざるを得ない労働者たちは、安物買いを強いられる。こうして低賃金と低価格の下方への循環が定着することになってしまった。ユニクロもデザインと品質管理を日本で統括していますが、生産は中国などでしているので、あれだけ安くできる。だから、この十年のデフレは「ユニクロ型デフレ」とでも呼びたいですね。

・・・?その前にスーパーの話しを延々とされていたので、地域の商店街の話しと勘違いでしょうか・・・?
1)この文章を読む限り、「安い労働力を求めて海外に生産拠点を移」したのは、「小泉改革が規制緩和を進め、市場原理主義を進め、日本にグローバル・スタンダード主義を持ち込」んだからと読めます。どんなところの規制緩和をおこなって、どんな政策が市場原理主義となって、企業が安い労働力を海外に求めていったと思っていらっしゃるのでしょうか?例えば政府が今まで「安い労働力を求めて海外に行ってはいけない」といった規制でもしていたのでしょうか?
2)「企業はコスト削減と柔軟な生産調整を実現すべく、正規雇用を非正規雇用に切り替えていく。」のは、派遣職種を大幅に緩和した派遣法の改正が呼び水になっているとは思います。では、なぜ企業はそうしたのか?またその結果、企業は儲かるようになったのでしょうか?
3)「ユニクロもデザインと品質管理を日本で統括していますが、生産は中国などでしている」のは、小泉改革のどんな規制緩和が影響しているのでしょうか?さすがに「理由は小泉改革だ!」としているデフレの名称に「ユニクロ型デフレ」と名付けていらっしゃいますから、どこかに関連性があるのでしょう・・・。
確かに地域の商店街にとって、自分たちの立地と違う、しかし商圏がかぶるところに大型店がどんどん出来ることはこの上ない脅威であり、それが故に地方の商店街が衰退していってしまった一因となっていることは否定し得ません。ここに確かに「大店法廃止」の影響があるように見えます。しかし、大店法の廃止はそもそも1998年であり、小泉内閣とは関係が無い時期。その上、廃止の経緯はWTO違反の疑いもあることから始まったことであり、「小泉改革」とか「市場原理主義」とは全く関係の無いところです。敢えて言えば、グローバル・スタンダードでしょうが、自由貿易を標榜する以上、WTOに敢然と立ち向かうことが何になるのでしょう・・・?(参考にこちらをどうぞ)
上でちょっと揶揄してみましたが、自分が考えるこの理由は今までG8と呼ばれてきた国以外の新興諸国が、それぞれの国民の教育レベル、制度の改革、インフラの整備、運搬手段の発達から、日本が今まで得手としてきた「国際的に比較的低賃金で、高品質なものを作り上げる」ことを出来るようになってきたからに他ならないと思います。ユニクロが中国に生産拠点を設けたのは規制緩和のせいではなく、中国でも管理をしっかりすれば日本並みの品質の製品を作り、輸送コストを含めてもより廉価で消費者に提供出来るようになったからです。
「ユニクロ型デフレ」との名称は自分も正しいと思いますが、意味合いが違います。19世紀以来の世界各国の大競争時代に突入したがゆえに起こったデフレなのだと思います。19世紀は軍事力による大競争時代でしたが、今は経済活動による大競争時代。いわば武器を使わない戦国時代なのだと思います。鎖国を志して完全に閉じた社会を作るつもりなら別ですが、そうでないのであれば好むと好まざると戦わざるを得ません。そう、この方もおっしゃっているように「日本の労働者は外国の安い労働力と競合関係」になってしまっているのです。
最近の日本は高付加価値型の工業製品で主に先進国をターゲットとした市場で戦い、そして成功してきたのです。それがリーマン・ショックという経済変動を迎え、高付加価値はあくまで余裕がある時に必要とされるもので、そうでない必要十分な機能の商品が求められた時、多くのライバル国との競争に苦労しているのが今の状況なのでしょう。アメリカ市場で韓国車が躍進しているような状況です。
確かに競争型社会はきつものですが、これは「小泉改革」のせいではなく、「世界の情勢がそうなってしまった(アジア諸国の国力が上がった)」ことによる、「世界規模での経済競争」に起因するものだと思うのです。
ここでの文で「適応は日本のお家芸ですからね」とも言われていますが、とんでもない。確かに80年代までは適応をうまくし続けていたと思いますが、90年代以降は適応がうまくいっていないからこそ「失われた10年(20年)」と言われているのではないでしょうか。これだけ世界的に通用するような企業がたくさんある国がどうして90年以降の成長率が群を抜いて悪いのか考えればわかることです。
80年代までを引っ張っていった人たちは、太平洋戦争-敗戦という激動を乗り越えて来た人たちだけあって、リアリズムが大いにあった人たちだったのでしょう。それに対して90年代以降をリードした人たちは社会に出た時は既にそれなりに復興した後だったので、どうしても日本という国に対して安易に信頼してしまっているところがあるのではないでしょうか?それこそ「世界の五大国に仲間入り!」と浮かれていた昭和初期の人たちみたいに。
それよりも現下の世界情勢、日本の国力を冷静に見た上で、「日本はこういう状況下にいて、今こうやって現下の情勢を打破すべき」と政治家もマスコミも言うべきだと思うのです。そうしていれば、きっと「ユニクロ型デフレで日本は沈む」のような対談がもてはやされることも無いと思うのです。
「敵を知り己を知れば百戦危うからず」
まさに今日本がすべきことは、この言葉をじっくりと考えることだと思うのです。

「多事争論 -「ユニクロ型デフレで日本は沈む」を読んで年の瀬に思うこと」に6件のコメントがあります

  1. いつもお仕事関係の記事を見ていて、
    「いい仕事をされている」
    と感じています。
    大手ゼネコンが好況のときすら
    ダンピングで消耗戦で誇りを失うなかで
    仕事の質で勝負されている気概
    を感じます。
    塩野さんが700円の本は書かない、
    という誇りと通ずるかと・・・
    コインの両面の裏側として・・・
    「安ければよし」とする
    デフレ・スパイラルへの警鐘として。

  2. 文武両道さん
    コメントありがとうございます。
    そうなんですよね、結局給料を下げたくないのであれば、そうは言ってもより価値感の高い仕事をしていかざるを得ないわけで、「市場原理主義者のせいだ!」と言っていても何も始まらないわけですし、「政府が手当をくれる」ことも何の解決にもつながっていないと思います。明治の日本が発展した理由は少なくとも手当が充実していたからではありませんし。
    自分の会社がそうなっているかどうかはわかりませんが、なるべくそういった方向性で行きたいものですね。

  3. ユニクロは着実にブランドイメージを上げた気がします。
    というかいつの間にかブランドとして認知されつつあると思います。MUJI(無印良品)も海外でブランドを確立したようですし。
    新しい素材、新しい宣伝、毎年異なるデザインと商品。(定番ものが多いと思いきや、同じものは翌年買えない)
    10年前とは格段に地位を上げましたよね。
    前は、「○○(例えばインナー)ならユニクロでいいよね」
    「ユニクロなのバレないうちに自分で白状して笑いをとってしまえ」
    「ユニクロの上着は着てると他人とかぶるから避けよう。」
    それが今の私なら「ユニクロなら確かに暖かいし便利なデザイン多いしそこそこの値段だから活用しよう」と思ってついセールを狙って買っちゃう。
    高級ブランドではないけど、機能性の高い商品を、激安ではないリーズナブルな価格で売っていると感じています。(主観ですが)
    価格の感じ方は人それぞれですが、確かに初期のユニクロは価格破壊的な宣伝で風雲児としてデビューしましたけど、一昨年からの再デフレについてユニクロを代表にするには疑問符が付きますね。あれだけ収益を上げて納税しているわけですから。
    ただ、会長の資産は目立って積み上げ過ぎに見えるので、(実際何かされておられるのかは知りませんが)欧米のように社会に還元してもいいんだと思います。

  4. 黄色と黒は勇気のしるし♪さん
    コメントありがとうございます。
    桐蔭学園は頑張ってくれましたね。とは言え東福岡もやはり強かったです。Numberによると、桐蔭もゲームの理解度、技術等々負けてはいなかったようですが、東福岡はそれをこなした上に、圧倒的な体格差があったようですね。しかし、大学で塾蹴球部は同じく圧倒的な体格差のあったFW戦で、互角以上の戦いをしていました。ここに塾高のヒントもあるのでしょうね。

  5. げんきさん
    コメントありがとうございます。
    そうですよね、最初はきわもの扱いだったユニクロも今では、誰も何のてらいもなく着ることが出来るようになりましたね。
    やはりただの価格追及に終わらせなかったのが、成功の元なのでしょう。生産そのものは安く、でもデザインや機能性で付加価値をしっかりとつけていく。ある意味王道であり、「ユニクロ型デフレ」と言うものではないと思います。
    あと確かに会長の社会還元もそろそろ取り組むといいように思えます。今のところ、確か瀬戸内にオリーブの木っていうのしか思い浮かばないですね、そういえば。

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