尖閣沖での映像に対する反応と5・15事件

尖閣沖での日本の巡視艇と中国の漁船の衝突から始まる一連の騒動。
ここに来て政府が頑なに公開を拒んでいた映像がYouTubeにアップされた。しかもそれは現役海上保安官がおこなったとされています。
この行為に対して世論も様々ですが、よくやった!と評価する声も多く見られます。それに対して、この政府の特徴だとも思いますが、世論を気にしてかなかなか逮捕にも踏み切れないでいます。
流出の航海士擁護の声相次ぐ…海保に800件(From Yomiuri Online)
航海士の弁護士「逮捕するなら早く」と検察に(From Yomiuri Online)
私はこの問題は2つの全く違う要素から成り立っていると思います。
1)政府の対応のまずさ
この問題で一番思うのは、一体どんな目論見があって漁船を捕まえたかということ。これくらいの問題だと少なくとも当時国交省の大臣だった前原さんが判断したのだと思いますが、その時点でどこに問題の着地点を置いていたのかという点が大事だと思います。
すなわち
レベル強-中国漁船を逮捕し、中国漁船の違法性を世界に知らしめ、最近尖閣沖で頻発している問題を抑える。
レベル中-中国漁船を逮捕し、少なくとも日本の船に当たってきたら罰則を与えるとわからせる
レベル小-少々取り調べをした後、中国から保釈金をせしめて開放する
くらいのことを考えて逮捕するならまだいいでしょう。もし単純に「我が国の領土と言っているところで明確に相手に落ち度があり、しかも証拠ビデオもあるというから、そりゃあ捕まえろ!」では、盧溝橋の時の牟田口さんが言った「行方不明者がいて、しかも相手から銃声がしたのだったら撃ち返せ!」といった言葉と同じレベルに感じます。
捕まえるのであれば、何を達成したいのか、そこに至るまでにどんなことが予想されるか?までは考えを張り巡らせるべきでしょう、為政者としては。どうしてもいつぞやの偽メール事件と同じで、何も裏を取らずに突っ走ってしまう人に見えるのです。前原さんは。
そして、その後の収拾を図ってはいたのでしょうが、政治家として「自分の判断でこうした」「自分の責任のもと、こういった指示を出した」という人がこの内閣に誰もいなかったことが、余りにも奇異に感じていました。深い専門知識と経験があるわけではない議員出身の閣僚の役割とはなんだと考えているのでしょうか・・・?
一部ではビデオを非公開にしていたから、これが外交カードになると思っていた人もいたようですが、その人の頭の中ではきっとビデオを実際に公開すると中国が困るはずだから、出すぞ出すぞと言って外交カードにした方が良いと思っていたんでしょうね。結果的には別にビデオを公開していないから日本政府に借りを感じているようにはとてもみえませんでしたが。
これについて各々の考えを述べる、これはいいと思います。但し、
2)(多分)義憤に駆られた国家公務員が自らの判断で、情報を公開してしまった
これについて敢えて民主党寄りから考えてみると、絶対この方を不起訴にしてはいけないと思います。確かに法制度上の不備、すなわち機密とはどのような手続きを経て機密となるかが曖昧だから、その点を突いて無罪を主張出来るとは思いますが、それはあくまで法廷闘争の考え方。国に仕える公務員が自らの判断で情報を扱うと言うことはどんな動機であれ、許されざることだと思います。それは国家秩序の観点からです。
にも関わらず、これだけ擁護の声が上がっている光景を見ると、自分は5・15事件での助命嘆願運動を思い出してしまいます。
(5・15事件についての説明はこちら
この時も時の宰相、犬養毅を海軍将校らが土足で自宅に乗り込み、射殺するという陰惨な事件であるにも関わらず、「愛国の純粋なる気持ち」を鑑みて命を助けて欲しいと多くの国民が嘆願書を出したのです。これに軍部等も乗っかり、非常に軽い刑で済んだ。このことが後の2・26事件にもつながり、そのまま国家総動員体制につながっていったとも言われています。
また「動機が純粋であれば」ということであれば、毛沢東が文化革命の際に唱えた「造反有理、革命無罪」も思い出します。その結果も亦、悲惨なものでした。
つまり動機が素晴らしいかどうかは別にして、守らなくてはいけないことは守らなくてはいけないと言うしか無いと思うのです。
一言で言えば「それとこれとは別」というのが、この事件に対する思いです。
とは言え、これで熱狂してしまうようだとすれば、やはり国民ひとりひとりの問題ではないでしょうか。近現代史をしっかりと学校で教えていない弊害がここにも出てきているように思います。
民主主義の国であり、主権者が国民であるのなら、責任を負わなくてはいけないのもまた国民。ただ煽ったり、悲憤慷慨するのではなく、どうすればいいのか、もっと地に足の着いた現実的な考え方をすべきなんだろうと思います。対中国戦略にしても、今回のビデオ流出事件についても。
ちゃんとしないと、またいつか来た道を・・・。

「尖閣沖での映像に対する反応と5・15事件」に9件のコメントがあります

  1. 同感です。冷静な分析に敬意を表します。乱暴な言い方かもしれませんが、あの9.11の惨事から世界の潮流は大きく変化してきているように感じています。中国の外交戦略が毛沢東思想をベースに鄧小平が敷いた路線を着実に歩んできたのに比べて、我が国の外交は残念ながら場当たりの色彩が強く心細い限りです。今こそ必要なのが福澤精神ではないでしょうか?先日から会社の若い連中に以前管理人さんが推奨されていた「横書学問のすすめ」を読ませています。もちろん、今の時代をそれなりに認識させた上でのことですが。そういえば「坂の上の雲第二部」が始まりますね。

  2. 薮中さんがNHKで語っていたこと。
    民主党は外務官僚の知恵を使ってほしい。
    新聞やテレビは民主党外交を批判するだけでなく、
    ベトナムとの経済、外交での連携に成果を挙げた点を
    報道してほしい。
    同感です。
    何度も言いますが、
    自民党の外交、防衛通、
    批判だけではなく、知恵を出してほしい。
    政権を奪うためにマスコミと同調するだけなら
    自民党が好きな「国士(?)」の名が泣きます。

  3. kktfさん
    コメント、ありがとうございます。
    さて、おっしゃるように場当たり外交と言うか、場当たり報道に危惧を覚えます。どうしても売らんがためか、世論に迎合する面が目立ちますね。小泉さんを持てはやし、派遣村に同情し、麻生さんの浅学さを笑い、鳩山さんの哀れさを蔑み、小沢さんのカネの問題を責める。ただ、騒ぎがあればいいのかななんて思います。
    この件に関して、自民党の反応も首を傾げるところがあります。が、谷垣さんが言った言葉にはその通りだと思いました。
    保安官擁護論に懸念=自民・谷垣氏
    http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20101115-00000011-jij-pol
    日本は国際競争と協調において、どのような地位を占めたいと思うのか。そういったことをもっと議論すべきなんでしょうね。そう言えばドイツでは21世紀の世界におけるドイツの役割が総選挙の争点になったそうですし。
    そう思っている時に福沢先生の著書を読むと、掛け値無しになるほど!と思わせてくれます。やはり「一身独立して国独立す」ですから。

  4. 文武両道さん
    コメントありがとうございます。
    さて、確かにあのビデオは公開すべきであったと思います。なぜ非公開にしたのかと思うと、この内閣独特の締まりのない秘密主義から来たのかなと感じています。
    でも、だからと言って公僕たる国家公務員が自らの判断で情報を取り扱うことには反対です。人それぞれ主義主張は違うものですから、責任の所在の無い判断は結果的に極端、威勢の良い意見に流されてしまうものだからです。中国で頻発する反日デモにしても責任者がはっきりしていないところが、あの暴走を招いているのだと思います。人は時には凶暴であり、その獣性が表れた時悲惨な事態が起こることは数多の歴史的事件が証明していると思います。
    なのでこういう流れになったからには、民主党政権は彼を逮捕すべきだと思うのです。
    自分から言わせれば、それで支持率が下がっても自業自得だとしか言いようがありません。だって彼らはあのビデオを非公開にするとすでに判断したからです。世論のうねりを怖がり、不起訴処分にするとすれば、彼らはまたもや自分たちの判断に対して責任を負っていないと言わざるを得ません。そうしないと一番大変な事態である国家的混乱を招いてしまうからです。イラクを見ても、一度国家的に混乱すると収拾するまでには途方も無い苦労が必要だと感じさせられますしね。
    つまり「ビデオは国が公開すべきであった」と思っていますが、「保安官がそれを判断すべきでない。そんなことをすれば、しっかり罰して国家秩序を保つべき。」だと思います。「そこで沸き起こる国民的反感も、自らの判断で非公開となした現政権は甘んじて受けるべき」です。自分はそう考えています。そしてそもそも「そういった政権を選んだ国民が主権者として責任を負わざるを得ない」のであって、「だからこそ選挙における一票は情緒的にお灸を据えるとかではなく、真剣に考えて投票すべき」だと思います。結局は主権者たる国民ひとりひとりの問題だと思うのです。

  5. 原口さんが、全く同じ主旨の発現をしていました。
    それは、それでいいのですが、
    なぜか、現政権批判が小沢・鳩山連合としてのもののようにも
    感じます。
    鳩山さんが農業自由化では選挙を戦えないと言いだし始めたのも・・・
    純粋に政策論争ならいいのですが・・・
    (権力から外されると、とにかく批判する)

  6. 柳がついた厚生大臣が「産む機械」で辞任にしたのは自民党。
    柳がついた法務大臣が「答弁は要領」で辞任したのは民主党。
    大臣の失言を政争の道具にする野党。
    更迭すると任命責任を問われると防戦の内閣。
    そもそも大臣の更迭にどれくらいの
    時間、お金のコストがかかるのか?
    また解散総選挙をやって、
    時間、お金のコストがいくらかかるのか?
    諸外国からは選挙ばっかりやってダメな国、
    と馬鹿にされないか?

  7. 文武両道さん
    コメントありがとうございます。
    おっしゃるように立場によって信念をコロコロ変えるのは個人、政党を問わずよく見られるような気がします。いつの時代からこれほど定見が無いというか節操がないと言いたくなるような状況になってしまったのでしょうか。
    最近の大臣の更迭も基本的にはいつも失言かスキャンダルばかり。何かの政策の責任を取ってとかいうのは見たことがありません。
    国民は大臣に何を求めるべきなのでしょうか。
    まずは国民自身がしっかりと考えるべきだと思いますよね。

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