雑誌記事のご紹介 〜RETHINKING JAPAN from NEWSWEEK その2

前回に引き続き、記事のご紹介です。

欧米も誇張する日本の「右傾化」
J・バークシャー・ミラー(米戦略国際問題研究所太平洋フォーラム研究員)
横田 孝(ニューズウィーク日本版編集長)
 長年、世界のメディアから地味な扱いしか受けてこなかった日本外交。ところがこの1年ほど、領土問題をめぐって日本の韓国と中国との対立が先鋭化し、これまでになく注目されている。
 昨年末、保守的な安倍晋三が首相に返り咲いたことで、外国メディアはさらに色めき立った。そして、こんな「分析」や論調があふれるようになったー恐るべき安倍政権の下、これまで平和主義を貫いてきた日本は第二次世界大戦の歴史を修正し、自衛隊を好戦的な戦闘部隊に変え、東アジアを火薬庫にするつもりだ、と。
 昨年の衆院選直前、安倍率いる自民党が復権することを危険視した韓国の英字紙コリア・タイムズは、「国際社会は一致団結して日本の右傾化にブレーキをかけるべきだ」と、妄想じみた社説を掲載した。
 日本の外交・安全保障政策が「右傾化」すると恐れているのは、韓国や中国だけではない。英エコノミスト誌は1月、「恐ろしく右翼的」な安倍政権は「過激なナショナリスト」の集団であり、「地域にとって凶兆だ」と断じた。
 もちろん、これらはすべてナンセンスだ。日本政治と外交の現実を理解している人間なら、こうした指摘を一笑に付すだろう。日本は極右勢力に牛耳られてなどいないし、安倍政権にアジア地域を不安定化させるつもりもない。
 選挙中こそ、安倍は強硬な発言を繰り返したものの、政権に就いてからは穏健かつ理性的な政策を打ち出している。例えば安倍は就任直後、ソウルに特使を派遣し、次期大統領の朴クンヘ宛の親書を送った。重要なのは、日韓関係改善のために先手を打ったのが朴でなく、安倍だったという事実だ。先週も、安倍は国会で日中関係について「最も重要な2国間関係の1つ」と発言した。
 それでも、日本があたかも狂信的なナショナリスト集団によって動かされているという誤ったイメージが世界に拡散した事実は残る。なぜ日本はここまで誤解されるのか。そしてなぜ、日本は強硬なタカ派の国とみられるようになったのか。
根深い歴史問題の「物語」
メディアのセンセーショナリズムのせいだ、と切り捨てるのは簡単だろう。日本に限らず、どの国のメディアもかねてから耳目を集めやすい事実や発言を都合良く選んで報じてきた。安倍の現実主義的な側面を無視し、過去の発言を強調するのもその一例にすぎない。
 だが、問題は不誠実な報道にとどまらない。大学やシンクタンクの「専門家」や「識者」が、日本外交の全体像を無視した「分析」を広めたことも誤解の一因だろう。冷静かつ的確な分析をした専門家もいる一方で、一部の識者らは日本の中国と韓国との対立だけを見て、日本外交が「右傾化」していると断じている。
 言うまでもなく、日本は韓国と中国だけを相手に外交しているわけではない。日本のアジア外交にはより広範で地域的なアプローチがある。ASEAN(東南アジア諸国連合)との貿易を拡大し、インドとオーストラリアと防衛協力を進めるなど、多様な国益のために多角的な外交努力をしている。全体像を無視し、日中と日韓関係が悪化していることばかりをあげつらって日本が「右傾化」していると断じるのは偏狭な分析と言わざるを得ない。
 より厄介なのは、歴史をめぐる「物語」が「国際世論」として定着していることだろう。日本が70年近くにわたり平和主義を貫いてきたにもかかわらず、世界にはいまだに第二次大戦という過去の色眼鏡を通して見る傾向が残っている。
 日本に軍国主義的な過去があったことは否定のしようがない事実だが、問題は、歴史はしばしば単純な「物語」に矮小化され、不正確な言説につながる恐れがあることだ。歴史認識をめぐる混乱は、とりわけアジア諸国の政治に深く浸透しており、一種の悪循環を生んでいる。
 中国や韓国の一部政治家は、「南京虐殺」や従軍慰安婦問題をやり玉に挙げ、戦時中の日本をナチスドイツと同列に論じ、日本は十分な謝罪をしていないと声高に叫んできた。
 中国と韓国が政治的に歴史問題を利用していることに、日本の世論も辟易としている。社会に多くの矛盾を抱えつつ、超大国の地位を目指す中国は、日本こそがアジアの問題だと唱えて国内の結束を維持しようとしている。そんな中国の反日プロパガンダに、韓国も便乗してきた。日本を牽制し封じ込め、時には内政面での不満をそらすスケープゴートとして都合よく利用できるからだ。
 歴史問題をめぐる中国と韓国の不満の声があまりにも強いため、欧米諸国でも依然として、日本が戦時中の行為について一度も謝罪していないと思い込んでいる人も少なくない。日本政府が謝罪したことを知る人たちでさえ、教科書問題や「河野談話」を安倍が見直す可能性を取り上げ、日本は不幸な過去に対する反省の色がなく、戦中の歴史を美化し、修正しようとしていると不安視している。
「国際世論」は正しいか
 実際のところ、日本の保守派が望んでいるのは、世界が日本政府による度重なる謝罪を認知して受け入れ、歴史解釈の問題や領土問題を検証し、正すべき事実は正したい、ということだろう。残念ながら、こうした声は「日本は反省していない」というイメージや「国際世論」によってかき消されてしまう。
 これに乗じて、中韓両国は領土問題を歴史問題とリンクさせ、自らの主張を正当化しようとしている。尖閣諸島も竹島も、かつて帝国主義に燃えていた日本が「盗んだ」ものだとしている。
 中国と韓国による主張の法的・歴史的根拠には微妙な点があるにもかかわらず、外国メディアの多くは中国や韓国の主張をうのみにしがちだ。
 その一例が、ニューヨーク・タイムズ紙の名物コラムニストのニコラス・クリストフの記事だ。同紙の東京支局長を務めたこともあるクリストフは、昨年の中国での反日暴動には批判的な立場を取っているが、1月5日付のブログ記事で、「明治時代の文書によれば、日本が戦利品として(尖閣諸島を)事実上盗み取ったことは極めて明白にみえる」と書いている。
 それにしても、欧米諸国はなぜ、こうした「物語」を信じてしまうのか。その根底には、質は異なるがよく似た「物語」が欧米には存在することが関係している。第二次世界大戦がファシズムと帝国主義を打倒した「正義の戦い」だったという単純なストーリーだ。こんな見方があまりにも根付いているため、これと食い違う意見や史実を再検証しようとする意見はすべて悪と見なされ、「修正主義」「歴史の歪曲」と切り捨てられてしまう。
情報発信を怠る外務省
 極端な日本観がはびこりやすいもう1つの要因として、日本が実際、過去に極端な変化を経験したからだと指摘する声もある。戦前の日本は東アジアの支配に向けて突き進んだが、敗戦後はアメリカに忠実な平和国家へと180度転換した。こうした過去があるために「一部の専門家は日本が再び戦略を大幅に転換するという不安があるのかもしれない」とダートマス大学のジェニファー・リンド准教授は指摘する。
 だが、これもステレオタイプで浅はかな発想だ。日本という国家が過去に大幅な方向転換をしたからといって、現在の国際情勢や日本の民主主義を考えれば、再び同じようなことが起きると勘ぐるのは余りにも安直すぎる。
 自国に関する勘違いが蔓延しているにもかかわらず、日本政府は誤解を解く努力をほとんどしてこなかった。外務省からの効果的な情報発信は驚くほど少ない。品位や節度を重んじるあまり、日本は中韓のアグレッシブなPRに押されてきた。領土や歴史問題をめぐって韓国や中国と同じレベルに下がって泥仕合を繰り広げるのは品がなく、事実を積み上げて真実が理解されるのを待つほうが「理性的」で「冷静」だ、というスタンスを続けてきた。
 複数の外務省高官は、筆者の1人に対して日本に対する誤解に不満をにじませながらも、日本的な価値観からして、韓国や中国の主張に真っ向から声高に反論するのは「大人げないからやりにくい」と語ってきた。
 確かにそうかもしれない。だが、日本の情報発信力が弱ければ弱いほど、韓国と中国の言い分が「国際世論」に反映されてしまう。領有権問題がいい例だ。日本は尖閣諸島が日本の主権下にあると印象づけるため、「領土問題は存在しない」という立場を取り続けてきた。だが日本が自己満足に満ちた「不作為」の政策を取り続けている間に、中国は既成事実を積み上げ、「領土問題が存在する」というイメージを国際社会に浸透させてしまった。
 日本が効果的な情報発信戦略の構築を怠ってきたために、外国メディアや評論家は日本という複雑な国を説明するに当たって単純で都合のいいストーリーに頼ってしまう。結果、表面的で誤った日本論が横行する。
 日本が武力を保持する権利はないという暴論は、その最たる例だろう。自国の安全保障と領土防衛は帝国主義などではなく、近代民主国家に不可欠な要素のはずだ。にもかかわらず、一部のアジア諸国には日本が国際安全保障はもちろん、自国の安全保障について語ることさえ許さない「不文律」が今もあるようだ。
認識されない日本の前提
 例えば、アジア情勢の戦略的課題に対応するため、日本が自衛隊を南西方面に再編する計画を発表すると、中国メディアは日本の好戦性を示す「極端」な動きだと糾弾した。
 こうした誤解があるからこそ、日本は「自衛隊」という名の軍隊の位置付けを明確にする必要がある。自衛隊とその役割は、外国では十分認識されていない。
 筆者の1人が先日参加したアジア太平洋地域の安全保障に関するシンポジウムで、欧米人の聴衆からこんな質問が出た。「もし中国が沖縄を侵略しようとしたら、日本はどうやって沖縄を守るのですか」
 質問者が知りたかったのは軍事戦略上の問題ではなく、自衛隊をめぐる憲法上の制約との整合性だった。この質問者は、日本には自国領土内であっても自衛隊を派遣する「法的権利」がない、と思い込んでいたのだ。
 いわゆる「アジア・ウォッチャー」の理解不足をからかうためにこのエピソードを紹介したのではない。この発言は2つのポイントを浮き彫りにしている。1つ目は、日本は憲法上の制約で自国内の紛争でも自衛隊を派遣出来ないという認識を広く持たれているということ。もう1つは、日本はそうした力を持つべきで無いという前提が一部で広がっていることだ。
 実際には、安倍をはじめとする保守派政治家が平時に提案する改革案はどれも、欧米の価値観からすれば取るに足らないことばかりだ。集団的自衛権の行使や国連の平和維持活動における自衛隊の権限拡大は、他の「普通」の国なら問題視されることはない。ワシントンのアメリカン・エンタープライズ研究所の日本専門家マイケル・オースリンが指摘するように、こうした動きは「国家安全保障のより合理的な意思決定プロセス」の一部でしかない。
 にもかかわらず、自衛隊の位置付けや憲法上の制約は十分に理解されていない。日本の平和憲法が現代の国際情勢の現実にそぐわないことへの認識不足も根強い。その結果、安全保障政策のいかなる変更も日本の「再軍備」と曲解されてしまう。イーストウェスト・センターの客員研究員クリスタル・プライアーは、日本政治に関する誤解に満ちた欧米の論調を批判する報告書で、こう記している。「日本政府内の安全保障論者について外国人が論じるときには、日本には他国と異なる前提があることを認識すべきだ」
 日本をめぐる誤解は笑いごとではない。とっぴな憶測のせいで他のアジア諸国に不信感が広がれば、日本の国益はさらに損なわれていくばかりだ。

いかがでしょうか?

「雑誌記事のご紹介 〜RETHINKING JAPAN from NEWSWEEK その2」に10件のコメントがあります

  1. 捕手は性格が悪くないといけない、と長崎君が後輩捕手陣に説教したそうですが、野村、森の歴代捕手は確かに性格が悪い。日本という国家、政治家、外務省は正直で人がいい。オレンジ計画に気付かずアメリカに追い込まれていく。蒋介石を相手にせずと言っている間、蒋介石はアメリカで反日宣伝工作を巧みに仕組む。太平洋戦争に追い込まれた日本だが先に手を出したのは日本。対ソ戦略は最重要で調査も軍備も最も重視していたはずなのに終戦工作にあたってソ連の仲介を期待、そして裏切られて仲介どころか満州の国境を超え、北方領土まで占拠された。
    最も警戒してきた筈のスターリンの善意を疑わない始末。外交とは相手の最も弱い所をつく外交ゲームである。吉田茂だけが対米従属のふりをして実はしたたかにアメリカを利用し日本の国力を充実発展させた。

  2. 4月の勉強会で議論するため塾生に転送したところ絶賛!
    管理人さんにお礼を伝えてくださいとのこと。
    因みに塾生の友人が外務省の中国担当の課長補佐で
    先月香港のテレビでインタビューされて日本の主張をしてきたそうです。
    品位を保ちながら毅然と主張する意識をもって!
    このテレビは全中国に放映されたそうで、中国も日本の政府の見解を
    自国民にも知らせることにしたのは驚きでした。

  3. 久しぶりに訪れてみたところがこの内容、唸るばかりです。こういう取り上げ方が管理人さんのオピニオンリーダーたる所以だと改めて感じ入りました。石破さんに目を通してもらいたいなあ。
    ところで、ニューヨークタイムズへの巨額のチャイナマネーは相変わらずなんでしょうね。

  4. 初めまして。
    「全早慶戦 IN 石垣島 2013」の記念スライドショーがユーチューブにアップされましたので、
    見ていただきたいです。宜しくお願いします。
    「全早慶戦 IN 石垣島 2013」の記念DVDが完成しました。その一部を以下にYou Tubeで紹介します。ご希望の方は、「石垣島三田会」会長・東大浜まで連絡ください。
    DVDには、スライドショー以外に名場面動画や関連資料もあります。
    ユーチューブで「全早慶野球戦 IN 石垣島 2013」で検索してください。

  5. 文武両道さん
    コメントありがとうございます。
    おっしゃるように日本は人が良いという言い方もありますが、違う言い方をすれば予断をしないでありのままの状況を見て、判断することが苦手なような気がします。例えばスターリンに対して「彼は西郷隆盛のような人物に見える」とか近衛文麿がルーズベルトと太平洋上で会談すれば解決すると思ったとか、南部仏印(ベトナム)に進駐してもアメリカは大して文句を言ってこないだろうと思ったりと、自分たちの目線で相手を判断する癖が抜けない気がします。
    昨今の対中問題にも、TPP問題に対しても、「我々はこうだからこうだ。相手はこんなことを言ってくるに違いない。」みたいな話しばかり耳にします。それより、誰かを選定し、あくまで相手国の立場に立って、相手国の国益を最大化する行動はどうかを考えさせ、シュミレーションすればいいのにと思います。報道とか評論家に現れるこういった姿勢が、キッシンジャーや周恩来が言ったという「大局観の無い、島国国家の日本」なんだと思います。
    吉田茂もそうですし、古くは陸奥宗光や小村寿太郎、そして桂太郎(私はこの人はすごい人だと思っています。ただのニコポンのわけがないです)や、幕末での西郷隆盛・大久保利通なんかを考えても、出来る人は出来ると思うのですが。もっとも彼らのように、死地をかいくぐらないと、なかなかその呼吸が掴めないのかも知れませんね。

  6. 文武両道さん
    そして次のコメントもありがとうございます。
    中国では「国内の政治犯弾圧」「天安門事件」「支配している少数民族の暴動」に対してのコメントで無い限り、それなりに話せるし、日本のように本音と建て前を曖昧に使い分けないので、寧ろ明確に議論しているという意見すらありますよね。
    いずれにせよ、思ったことを伝えるのに、同じ言語を使っている人同士ですらなかなか難しいのに、違う言語の国の人に対しては、とにかくあの手この手を使って自分の意思を伝えるしかないですね。韓国も中国も新聞社が日本語のサイトを持って、しかも自国の主張をしています。こちらの記事にもあったとおり、やはり主張すべき事は主張し、それも効果的に宣伝も含めて行うしかないですよね。

  7. kktfさん
    コメントありがとうございます。
    報道機関もそうですが、結構惑わされるのが、西洋人の名前で結構日本に対して厳しく、中国寄りの発言をする記事だと思います。
    最近イギリスのFTが安倍政権を極右扱いしたり、辛めの記事を掲載したりしています。
    例えばこれです。
    「日本経済、手早い対策は緩やかな停滞より危険か」
    http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37270
    結構、批判的に日本を見ているなあと思い、筆者を見ると「Henny Sender」さんとあります。
    なるほど、イギリス人かと思いましたが、その名前をググってみると・・・、
    http://www.economistconferences.asia/speaker/henny-sender/852
    「へニー・センダー氏は、2007年にフィナンシャル・タイムズへ入社し、現在は香港を拠点として国際金融分野の主席特派員を務めている。」
    とあり、以前からこんな記事(http://blogs.yahoo.co.jp/oyosyoka803/42255571.html)とかを書いています。
    いろいろな工作の仕方があるのものだと感心してしまいますが、これはアイリス・チャン以来の伝統なのかも知れませんね。もっとも他の国も情報工作という点では似たりよったりのようにも思います。
    日本は良くも悪くもそういった国々と対峙しているのだと認識することは悪いことで無いと思うのです。

  8. 石垣島三田会のみなさま
    コメントありがとうございます。そして、キャンプ、全慶早戦に多大なるご尽力をしていただき、本当にお疲れ様でした。
    ちょっとこの記事のところでいいのかどうか気にはなるところですが、そのスライドショーをご紹介させて頂きます。今後とも何卒よろしくお願いいたします。
    http://youtu.be/WQwhZzU6gVo

  9. 桂太郎が世に出る幸運
    長州、吉田松陰、桂小五郎、山縣有朋
    桂の閨閥
    石坂泰三(経団連元会長)、
    霜山徳爾(フランクル「夜と霧」)思わぬ発見!

  10. http://bylines.news.yahoo.co.jp/egawashoko/20130509-00024839/
    自民党を追い詰めた小沢民主党
    野田民主党を追い詰めた自民党
    細野は是々非々でいくといっていたのに!
    江川さんに同意
    外交は相手や環境を冷静に分析するところから始まる。
    韓国大統領は米議会で演説した。
    戦前と同じようにわが道を行く日本

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