「日本軍と日本兵 米軍報告書は語る」


なかなか自分を客観視するというのは難しいのでしょうが、その中でも特に第二次世界大戦時の日本軍をイデオロギーの影響無くして見るのは大変難しいことです。
それは左の方のようにアジアの民衆に暴虐の限りを尽くしたといった完全なる否定でも、右の方のようにアジアの民のために立ち上がった勇敢な兵士という肯定でもないと思います。
また、それが軍隊としての資質となると、そもそも現代日本は特殊な人たち、すなわち自衛隊に奉職されている人で無ければ、軍事組織と関わらないため極端に描かれがちです。特に陸軍はその傾向が顕著だと思います。曰く、
・死をも恐れぬ勇敢な戦士
・兵隊は世界一優秀だったが、上層部が無能で、硬直したバンザイ突撃しかしなかった
・主力兵器は明治38年制定の三八式歩兵銃
・銃剣突撃が得意
・常に弾薬や食糧や物資が不足していた
みたいなところでしょうか?
ところがこの本は、それは戦後作られた神話だったんだろうなと思わせてくれます。
この本はアメリカ陸軍の広報誌「Intelligence Bulletin」の内容をまとめたもので、毎月戦場レポートや参戦した兵士たちの座談会などを通じて、直接対峙している日本軍とはどのような軍隊かということを紹介しています。イデオロギーとかは一切入れず、相手の書いていることを脚色を加えず書いているのが素晴らしいです。そしてそこに描かれている実像は、今まで思っていたとおりの事もあれば、目からウロコの話もありました。
・日本軍の戦法は包囲殲滅を基本としていた。日本軍は予備隊をほとんど、あるいは全く作らない。 →奉天会戦を始め、日露戦争時からそうだった
・主力兵器は銃剣突撃では無く、機関銃。これを巧妙に配置し、掩蔽し、隘路に追い込んだ敵を殲滅しようとした。防御においても基本的平気であった。
・肉弾戦を好まず、また苦手 →体格差からすればさもありなん
・射撃が下手。特に移動しながらが苦手 →サッカーの日本代表の試合を見ていれば、昔から変わっていないことがわかる
・予定された作戦を遂行するには勇敢な兵士だが、想定外のことが起こるとパニックにすぐ陥る →今の日本人にも充分通じる
・集団になるとよく喋り、その話し声で居場所がわかる →今もそうだ
・日本兵は病気になってもろくな待遇を受けられず、内心不満や病への不安を抱えていた。戦死した者のみを大切に扱うという日本軍の精神的風土が背景にあり、捕虜たちの証言はそれへの怨恨に満ちていた →上の言うことに割合従順だが、無批判では無く、寧ろ多くの不満を抱えているという姿は、どこの企業でも見られること
・どの戦場でも「穴掘り屋」と化して穴を掘り、もしくは洞窟に籠もって抵抗するという戦法で長期戦を試みた。彼らは最初から「玉砕」それ自体を目標としていたわけではない。
・戦争途中から日本軍も火力重視に戦法を改め、米軍の作戦と同じように火力集中→歩兵突入を指向するよになる。
・フィリピン戦以降の日本軍は水際抵抗(撃滅)も安易な「玉砕」も止めて内陸の洞窟に立て籠もるという戦法で抗戦したし、沖縄では過去の戦訓に従って戦法をさらに改善、長期抵抗を目指した。
→さすがに硬直性が強かったとしても、何も考えない訳がない。日本なりの持っている諸条件を勘案した合理的な作戦を採ろうとしていた。
以上のように、別にどの部分を読んでも、きっと今の我々が同じような状況に追い込まれたら、同じようなことをするかもと思える内容ばかりでした。今までの旧日本陸軍に持っていたもやっとしたものが無くなり、「得心がいった」ように思えました。他にも色々と興味深い描写もある(例えば記念品ハンターとなっていた米軍兵士を籠もっていた日本軍将校が見つけ、刀を振り回して追いかけ続けたという描写は状況を想像すると、何となくコミカルでした)ので、もしご興味があればご覧下さい。

「「日本軍と日本兵 米軍報告書は語る」」に3件のコメントがあります

  1. 面白いですね。勝海舟が咸臨丸でアメリカに視察に行った報告を、当時の幕府の重鎮にした時の言葉に「アメリカでは、それなりの人物が上に立っているところが、日本とは大きく違う。」と言ってのけた話しを思い出しました。
    津波の教訓も、22万人が亡くなったというのに、東日本では生かされませんでした。ましや先人が残してくれた言葉があったにも関わらず。。。
    「失敗の本質」は大分前に読んで関心させられました。もっとものような書き方ですし、確かに否定できない結果でした。しかし、ミッドウエーやレイテ湾の時は、正しい判断を選択できた機会があったにも関わらず、負を選んだのは、それまで日本が積み重ねてきた歴史だったのかなと感じています。

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