極東情勢は1960年代に逆戻り

安保法制が紆余曲折の上、成立しました。
この法案についての賛否というのは、腐るほどマスコミを賑わしてきました。
が、これを現下の国際情勢と併せて論ずるお話が殆ど無いのはどうしてでしょうか?
そして昨日の日露外相会談の後の記者会見が異例な事態だったということで、各紙が報じていました。
岸田氏ぶぜん、「見切り発車」の日露外相会談(読売新聞)

【モスクワ=仲川高志】2時間20分にわたり行われた21日の日露外相会談は、
北方領土問題の解決に意欲的な安倍首相の意向を受けたものだ。

ただ、プーチン大統領の「年内来日」実現と、それに伴う領土交渉の進展を優先した
「見切り発車」の面もある。

外相会談を受けた共同記者会見の終了後、岸田外相はロシア側への不満を態度と
表情ににじませた。外交儀礼上、共同会見が終われば、両外相は握手して立ち去る
のが通例だ。しかし、岸田氏は立って握手を待つラブロフ氏を無視するかのように、
座ったまま書類を片づけ続けた。ようやく握手するまで、岸田氏の顔はぶぜんとしていた。

「予想はしていたが、これほど厳しいとは」。外相同行筋は、ため息をついた。
平和条約締結交渉の再開では合意にこぎ着けたものの、今後の領土交渉は難航が
予想されるためだ。

まず始めに私見を述べさせていただきます。
現在の極東情勢は50年ぶりに日米対中露の構図がはっきりと出来上がってしまい、その構図上での双方からのプロパガンダが激しさを増してくるので、国民としてはよくよく情報を的確に判断する目が必要になってきたということです。そして少なくともここしばらくはロシアと北方領土交渉をしても全くムダであり、無理をしてプーチン大統領訪日を決める意義は無いと思います。
この構図が確定するきっかけとなったのが、クリミア問題です。それまでは、日露関係はプーチン大統領と安倍総理・森元総理の個人的な相性の問題もあり、若干進展するかのような情勢でした。これは、ロシアが資源貿易の好調さで維持してきた経済が傾きを見せ、ロシアとして何らかの経済的打開策を図らなければならないとき、シベリアからの天然ガス供給が見込まれる日本は、ロシアにとって経済的戦略価値があったからです。また膨張する中国を牽制することも出来るので、安全保障上でも意義がありました。
ところが、ウクライナが親ロシアから親欧米に移行する流れが見えたときから情勢は変わります。ウクライナが親英米勢力となってしまえば、ロシアは直に親欧米勢力と隣接しなければなりません。これは、伝統的に緩衝国を設けることが安全保障の肝としていたロシアにとっては到底受け入れられるものではありません。プーチン大統領も強面の実行力逞しいイメージが国民の支持を集める源泉のため、ウクライナに対して、そしてその流れでクリミア半島を併合する流れとしました。ちなみに、ここクリミア半島がロシアの自由にならなかったら、不凍港(つまり1年中港が使える場所)を欧州側で使うことが出来ず、戦略的自由度がかなり狭まるため、ロシアとしても必死です。
それは欧米側にも言えること。アメリカは軍隊こそ派遣しませんが、強硬な制裁姿勢を見せます。ここに安全保障上、根本的な対立案件が米露の間に生まれてしまいました。
そうなると当然に、日本は両陣営から踏み絵を迫られます。ロシアを制裁するや否やと。
日本は得意の曖昧戦略で逃げようとしますが、相手にとっては白か黒かが問題であり、両国から迫られます。結果、今の日本は、緩やかな制裁でアメリカへの仁義を立てつつも、ロシアにも「そんな本気ではやっていませんから」といった感じで、北方領土の進展への期待を棄てていない姿勢を取ろうとしているように見えます。
しかし、そんな虫の良い話を、特に制裁を受けているロシアが受け入れるはずもありません。
日本は中国の東シナ海・南シナ海進出が安全保障上の重要案件の大半を占めています。これを日米同盟の強化とロシアとの親密な関係による牽制でなんとかしようと考えましたが、ロシアにとっては寧ろ欧米に対する同盟国となり得る中国の方がよほど戦略的価値が上です。その結果が北京で行われた抗日70周年式典での天安門でのプーチン大統領の姿な訳です。
こうなってしまっている以上、独自の軍事力の裏付けの無い外交しか出来ない日本としては、好むと好まざると日米同盟、そして米国の同盟国との関係を深め、対抗するしか無い状況になったと思うのです。だから、どうにか強引にでも限定的な集団的自衛権を認め、より同盟関係を深めるしか無い日本の立ち位置をもっと意識するしかないと思います。例え属国的であろうとも。だから、中国もロシアも安保法制に対して反対の立場を表明しているのです。
ただ一つ解せないのが、日本政府が今でもずっと早期の北方領土交渉に拘っている点です。もしここで冷静な目線を持っていないのであれば、大変危険です。安倍総理も自分の任期中に北方領土解決に拘らず、情勢の推移を見守り、悪化しないように管理していくしか方法が無いように思います。
マスコミが先日の日露外相会談の後の記者会見をビックリしたように報道し、かつロシアは変わっているからみたいに報じているのを見て失笑を禁じ得ません。
いずれにせよ、軍事力が背景に全く無いところでの外交は、ビッグパワー間ではあり得ないと思います。このことを右も左も理解して、今回の安保法制を論じるべきです。
佐藤優さんが琉球新報紙上で話した、
「日本政府は、ロシアと提携して中国を牽制するという外交カードを失った。その結果、沖縄の基地機能を強化し、中国を軍事的にけん制するという論者が安倍政権の周辺で力を増すことになる。」
という言葉は卓見でしょう。こういう事態になる前にどんなことを言っているかで、その人の信頼性がわかると言う点もありますね。この問題について佐藤優さんが書かれているのも大変興味深いのでどうぞご覧になってみて下さい。
ロシアに送った好意的メッセージ
「米か露か」 プーチン氏が迫る踏み絵
「北方領土で譲歩なし」読めぬ日本
勝算なき日露外相会談

「極東情勢は1960年代に逆戻り」に1件のコメントがあります

  1. いつもながらの分析力、流石ですねえ。北方領土対応ですが。相手がソ連ではなくロシアであること、指導者がスターリンではなくプーチンであること、21世紀の世界情勢がかつてないほど複雑化していること等を考えると「あっと驚く展開があるかも?」という気もしています。安倍首相を除く何人の肚の座った政治家がいるか、が日本の針路を決めるのではないでしょうか?国民の多くは「北方領土などより消費税」と考えますが、戦後70年経っても平和条約締結さえ結べない二か国との関係はもう「事なかれ」では済まない段階に来ているように思えます。

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