シリーズ 原発危機 第1回 「事故はなぜ深刻化したのか」を見て

この番組の放送は6月5日だったのですが、なかなか見ることが出来ず、ようやく録画したものを見ることが出来ました。
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まだ問題が現在進行形で進んでいる中ではありますが、丹念に事実を積み重ねているように見え、とても興味深い内容でした。
自分は今まで電源が津波によって喪失され、しかも電源車を用意していなかったことから、そしてベントを開くことをもたもたしていたからこの原発事故が発生していたといった認識でした。
ところがこの番組で追っかけてみると
1)地震の際に5分以上の強い揺れを観測し、原子炉が緊急停止。発電所も停電となる。
2)続いて津波が押し寄せ、予備電源を含め電源喪失となり、燃料棒を冷却する手段がなくなり、炉内の温度が急上昇する。
3)この事態を受け、福島第1原発が東電本店に緊急通報、東電本店も15分以内に原子力保安院に通報。
4)保安院で事実確認に手間取り、時間をロス。更に官邸に通報され菅総理と所管の海江田経産相で話し合うが、野党を含めた党首会談のため一時菅総理が中座。結局原子力緊急事態を宣言するのは発生から2時間以上経過してから。
5)その時は菅総理を始め官邸は電源回復さえすれば冷却出来ると考え、兎に角電源車を集めることに奔走する。
6)その結果午後8時くらいからは近県から続々と電源車が集まってくる。
7)ところが、コネクターの形状の地がい、ケーブルの違いなどで、作業が手間取り、電源回復に時間がかかる。
8)そして午後10時頃、ようやく通電開始!となったが、冷却装置は作動せず。既に所内の電気系統が破損していることが明らかになる。
9)ここで、冷却システムによる燃料棒を冷やすことを断念せざるを得なくなる。そこで考えられたのが冷却水の沸騰による炉内の圧力の急上昇を緩和するためベントを開き圧を抜き、消化系統による直接放水によって炉内の冷却を図るしか無いと考え、東京電力はベント開放を官邸に相談。もっともベントを開くと言うことは放射性物質を周囲に拡散させることにもなり、周辺の住民に健康被害を与える恐れもあるため、苦渋の決断ではあったが、それよりメルトダウンを防ぐためにということで早々の決断となった。
10)官邸もその決断を諒とし、早々にベントを指示。菅総理もきっと断腸の思い。
11)ところが一向にベント開放はなされない。というのも a)周辺住民を避難させないと被曝させてしまうので、半径3km圏内の住民の避難にこだわった b)もともとベントは電動式で電源喪失時のベント開放の方法が確立されてなかった。それに加え放射線量が高くなっており、作業員はその場所で短時間しか作業が出来なかった。
12)なかなかベントが始まらないことに業を煮やしたか、翌早朝菅総理が直接福島原発に赴く。(ただ、この準備により時間がロスした可能性も否定できない)
13)そしてようやくベントを開けることが出来た・・・と思ったら、1号機が水素爆発。
14)菅総理は本来のラインである、保安院、原子力安全委員会を信頼できず識者を集め意見を聞く。今後どうなるかの見通しをみんな言わないからとのこと。そして識者達にこう言われる。3号機、4号機も水素爆発するでしょうと。どうにかして避けられないか?水素を逃がせないかと問いかけるが、建屋を切断する際の火花が水素に引火して大爆発の恐れもありとのことでどうしようも出来ず。
14)そして3号機、4号機も爆発する中、2号機について最悪事態も想定させるような状況が報告される。ベント開放が全く出来ないと。これにより最悪の事態、すなわち原子炉の爆発も想定される事態に。
15)2号機はなんとか建屋の爆発で済むが、これにより1-4号機が全て水素爆発を起こすという緊急事態に陥る。
16)この辺りの経緯を官邸は情報の混乱を恐れるが余り、情報管理をきつくして、全てが官邸が了承しないと各部署は情報を発信できなくなり、周辺住民への情報発信が遅れる。これにより被曝したと思われる住民も多数出す。
といった流れのようなのです。菅総理を含め誰もが、自分のやるべきをことを迅速にやろう、としていましたがそこに手続きの煩雑さ、多くの誤算と想定外のことが重なり、時間が空しく過ぎていった結果、ああいった事故になったのだと。
まず、一つの疑問があります。冷却系統が破損したのは、地震の揺れによるものなのか?それとも津波による影響なのかと。今回の事故が冷却不足から起こったものであるならば、それは電気系のトラブルか、それとも注水配管の破損なのか。電気系のトラブルなら浸水によるものなのか、その前の揺れですでに破損されていたのか?これが明らかにされないと、今回の教訓を踏まえて他の原発が安全かどうかということを言えないのではないでしょうか。少なくともディーゼル発電機が水に浸かって動かなくなったから、事故が起こったという話しではなさそうです。
よく「予期し得た」と「想定内」を同意義で話す方もいらっしゃいますが、違うと思います。「想定内、想定外」はその言葉通りに読んだ方がわかりやすい。すなわち、我々日本人は今回の事態を想定出来ていなかったということなのです。コロンブスの卵みたいなもので、今言えば、なぜ電源を防水していなかったとか色々言えますが、殆どの人たちが想定していなかった。だから「想定外」だったのだと。
昭和16年夏の敗戦ではないですが、大災害でのシュミレーションというのをもっと真剣に受け止め、各専門家の率直な想定を算入すべきだった。せっかく浜岡原発事故の訓練を昨年10月に行ったにも関わらず、今回のような事態の想定がされなかったことを反省すべきでしょう。
でも考えてしまうのです。では平成23年3月11日の午後2時45分に立ち戻って、そこから打てる最善手はなんだったのかと。電源が喪失したから電源車手配→手配ついたが失敗。ベントを開けて減圧を図ることを決断→ベントを手動で開ける方法が確立されていなかった。周辺住民の避難のスキームも出来ていなかった。では・・・。
「兵は拙速を尊ぶ」
災害対応もまさにこれでしょう。でも誰もが拙速で行きたいと思っていても出来ないこともある。それを突き破るものは何か?203高地の攻略では、児玉源太郎の28サンチ砲の直接砲撃の決断で流れが変わったと言われています。あの時点で何をすればこうはならなかったのか・・・。こちらのシュミレーションもまたすべきだと思います。
要するに
1)最悪の事態を想定する想像力を持ち、その上でその対処を一つ一つ考えていく必要性
2)想定していなかった事態が発生した時に、どのように対応するかを訓練する必要性
この2つが問われているし、この2つが日本には欠けていたと思わされる番組でした。
この2つ、つまりそのまま軍事学なんですよね・・・。やっぱり軍事を忌み事として国民が避けている限りこのままでは・・・。良くも悪くも戦時中に軍に携わった世代が引退してから後は、やはりこういったことへの対応が頼りなく見えますから。少なくとも政治家を目指す人には軍事学の素養は持って貰いたいとも思うのでした。

「シリーズ 原発危機 第1回 「事故はなぜ深刻化したのか」を見て」に6件のコメントがあります

  1. 今、東電や経済産業省の批判をするのが
    はやりです。
    でも東電や経済産業省が解決策を提示しないと
    何も解決しないのです。
    そこで東電や経済産業省に技術、専門知識集団を
    つくろうという動きが水面下で行われています。
    朝日新聞は1面で政官民の癒着と批判。
    声のかかった人で引き受ける人と辞退する人が
    別れています。
    私がこれまで尊敬していた人が断りました。
    テレビで盛んに政府のやるべきことを
    提言していたので引き受けると思っていたのに!
    私は、その人と絶交しました。
    相変わらずその人はテレビに出続けています。
    先週、息子のところにメンバー入りの話が・・・
    かなり逡巡していましたが、引き受けることに。
    東電の人間、経済産業省の人間が
    批判されるだけなら、
    誰がこの問題を解決するのでしょう。

  2. 原発解散がまことしやかにささやかれ、
    経団連会長、谷垣総裁がすみやかな菅総理退陣を
    訴えています。
    朝日の1面などに見られる
    反原発、代替エネ推進に反対する体制に反対する
    社会派正義の菅直人で政権を守ろうとする
    これはもしかすると起死回生の奇跡を生むかも
    知れません。
    悪夢が始まる?

  3. 震災つながりで。
    先日、今日のあの夏越えの祓いについて書かせていただきましたが、先ほど友人にメールで知らせたら、その中の一人から返事が。
    その人の姉の家が仙台で家は、ボロボロになったそうです。しかし、幸い津波からは免れたそうです。
    近くにこんな神社があったからだそうです。
    昔の人の力をあらためて。
    http://blog.goo.ne.jp/lonewolf-pochi/e/d374904b0ae00987f957643248fe2158

  4. 電気予報が始まりましたが、スリーマイルやチェルノブイリ後の時はどうだったのでしょうか?このまま菅首相続投が延々と続くと脱原発仲間はドイツ、イタリアと三カ国になりそうですね。偶然かも知れませんが、70年以上前相次いで国際連盟を脱退したのも・・・。何か嫌な感じがしています。

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