「共産主義批判の常識」を読んで

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塾長の方の本が続きますが、今度は小泉信三元塾長が記した「共産主義批判の常識」です。
こちらは、戦後日本の論壇も共産主義礼賛が続く中、戦前より経済学者であった小泉元塾長が、比較的平易に当時ソ連で展開されていた共産主義に対して論じた本です。
そもそも共産主義をマルクス・エンゲルスはどのように論じていたのかを述べます。つまりは生産手段が高度に発達し、生産財のコストが極限まで低減すると、資本家は必要利潤を得るため労働者を搾取して賃金を下げる。そうなると社会に矛盾が生じ、やがて労働者階級は立上り、革命は必然的に起こり、プロレタリアート独裁が成し遂げられるといったものです。(端折り過ぎですが)
当然「資本主義が高度に発達した結果」が共産主義なので、マルクス・エンゲルスが想定していた革命が生じる国はイギリスなどの当時の経済先進国でした。ところが実際に革命が起こったのは当時西欧からは遅れた国として見られていたロシアであり、その後は中国でした。
この矛盾について、小泉先生はばっさりと論じます。つまり労働者(というか国民)が堪え難い状況となるのは資本主義の発達では無く、戦争であったり各階級層の間での対立であり、この状態を革命家は望み、利用しているのだと。
すなわち、

 共産主義者にとっては共産主義国以外においては、秩序の破壊ということが当然最も大切な本務とならねばならぬ。したがって前に説いた限界生産力の増進による勤労階級の状態改善のごときは、正直のところ、かえって望ましからぬことであろう。生産は上がらず、民衆は現在事象を堪え難しとする状態こそ共産主義者にとっては最も働きやすく、収穫多き状態であろう。

 三十年前ロシヤ革命が起こったとき、ボルシェヴィキの一宣伝者は社会主義革命はどこに起こり得るかとの問に答えて、「それは資本によって造り出された状態が労働者階級にとって堪え難きものとなる処ではいずれの国にも起こり得るし、また起るであろう」といった。
 かかる「堪え難き」状態は、しからばどこに造り出されるか。マルクスは資本主義の発達が必然的にそれを造り出すように説いた。しかし先進資本主義国ではどこにもそれは造り出されず、かえって資本主義のはるかに後れた国に、戦争によって造り出された。今後も恐らくは同様であろう。
 (中略)戦争が「堪え難き」状態を現出することは間違いなく明白である。敗戦国のことは言うまでもない。戦勝国にとっても、戦争の今後の破壊力を計量すれば、その惨害が、いかなる激烈の恐慌も、いかなる大量の失業もとうてい及び難いほどのものであろうことは、充分に明白である。もしも民衆生活の現実の安寧と福祉とが第一に大切なことであるならば、戦争の惨害はいかにしてでも避けなければならぬ。しかし、もしも革命が至上のものであって、そうして、その唯一の機会はただ戦争によってのみ造り出されるとしたならば、ひそかに最も戦争を願わなければならぬものは革命家だということが、当然の論理となるであろう。ここに自他ともに警戒すべき危険がある。職業的革命家の陥り易い誤謬には職業軍人の陥る誤謬ときわめて相似するものがある。

と論じています。常に社会主義国家であったり左寄りの政党が「闘争の貫徹」といった具合のことを標榜していた理由がわかったような気がします。彼らにとって安寧な状態の社会は望ましいものではなく、「堪え難き」状態の社会情勢を造り出し、そのために自分たちの存在意義があるのだということがわかっているのでしょう。
そうすると中国で胡錦濤前国家主席の掲げていた「和諧社会」とは社会主義諸国では異例のスローガンですね。闘争ではなくバランスの取れた社会と言うことですから。ただ中国には古来間違いなくそういった思想があります。聖王舜と禹の時代を理想としていましたから。こういったところを深く洞察しながら向こうの要人と日本の政治家なり外交官が語り合えれば、また違った風景が描かれそうなものですが。
なお、小泉先生が戦後直後の状況で語った
「いわゆる資本主義の矛盾なるものは、結局生産物に対する有効需要の不足ということに帰着するであろうが、生産力の高度の発達さえあるならば、国家の介入その他によって有効需要を造り出すことには、恐らく幾らも方法が考えられるであろう。」
は、それから60年ほど経った我が国で似通った状況が作り出されました。すなわち政府がどんどん公共投資や補助金をばらまき、国家財政が膨大な赤字を抱え込むようになって尚、有効需要が不足し、デフレ状態となったここ最近の日本です。まさに歴史のアイロニー(皮肉)ではないでしょうか。
この大きな要因に、自分は人口構成の変化があると思っていますが、それはまた違う機会で。
とにかく今の各国のスタンス、各政党のスタンスを想起しながらこの本を読むと、本質は何も変化していないなあと思わされます。さすがの洞察力だなあと思った次第です。

「「共産主義批判の常識」を読んで」に2件のコメントがあります

  1. 集団的自衛権の問題で
    中国を挑発するとマイナスのスパイラルになって軍事の拡大競争になるという
    朝日に代表される反対説と
    冷戦終結後の中国の軍事拡大に対する抑止力を強めるために米国との集団的自衛権共闘が不可欠
    という安倍首相の賛成説
    オバマの民主党がリップサービスのみで中国利権で最後は裏切られる
    関ヶ原の毛利の裏切りの再現かも
    意外にプーチンが最もリアリストという国際政治専門の友人もいる。

  2. 複数のブログで書き込み拒否されました。
    管理人の方に連絡すると心当たりがないとのこと。
    こちらのブログも拒否まではいきませんが、不審なことが
    たびたび起きています。
    ご迷惑をおかけするといけないのでしばらく投稿は中止いたします。

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