「江戸参府随行記」を読んで

大変ご無沙汰しております。皆様お元気でしたでしょうか?
さて、今年初めての記事は、昨年より読み続けていて、なかなか読み終わらず、ようやく読み終わった本のご紹介です。

この本は江戸時代、出島の三大学者として名が知られているスウェーデン人の植物学者ツュンベリーが1775年から1776年にかけて、日本に滞在し、長崎の出島から江戸までの参府の往復旅行の紀行記も含め、当時の日本を客観的目線で書いた本です。
この本のスタンスは序文でツュンベリーが自ら下記のように書いているように、

私は日本国民について、あるがままに記述するようつとめ、おおげさにその長所をほめたり、ことさらにその欠点をあげつらったりはしなかった。その日その日に、私の見聞したことを書き留めた。さらに彼らの家政、言語、統治、宗教等々、いくつかの事柄は後にまとめて記述することにし、一か所でそれらを論じ、折にふれて断片的に記すことは避けた。

といった具合で、変なイデオロギーや立場の違いを組み込まず、まさに「客観的」に当時の日本を描いているように感じ、だからこそ、淡々とした筆致なのですが、その文中に見えてくる色々な人たちが色彩豊かに、活き活きとした姿を見せてくるように感じます。
上記のamazonの中の書評にあるように、ある面では「とにかく日本と日本人を褒めまくってくれてます。」と感じられる部分もあるかもしれませんが、当然批判している部分も多々あります。家屋の構造や暦学、医学、印刷などについてはその後進性をこれまた冷静に指摘しています。
この本の圧巻は自分は、第五章の「日本および日本人」において彼が日本を考察している部分です。
日本の地理的状況と気候
日本人の外見
日本人の国民性
日本語
姓名
衣服
家屋の構造
統治
武器
宗教
食物
飲物
喫煙
祭事の娯楽と催し
学問
法律と警察
医師
農業
日本の自然誌
商業
どれもうならせてくれるし、今の日本人の特性としてあげられているものは、江戸時代より綿々と流れているものであり、またなぜ日本が19世紀後半に突然明治維新で近代化を成し遂げることが出来たのかも教えてくれているように感じました。
印象深かったところを挙げようと思いましたが、下記のページに書かれているので、ショートカットを張っておきます。というか元々は下記のウェブページを読んで「本当にこんな風に書いてあるのかいな」と思って、この本を手に取ったのですが、本当にこういう風に書いてありました!
http://www.asahi-net.or.jp/~xx8f-ishr/edo_sanpu.htm
上記のページの中で、こちらの管理人さんでいらっしゃるオロモルフさんがおっしゃっている

ツュンベリーにとって印象的だった江戸中期日本人の実態を表すキーワードには、「身分差別がない」「女性が奴隷ではない」「清潔」「正直」「公正」「勤勉」「節約」「巧みな工芸」「商品が豊富」「犯罪の少なさ」などいろいろありますが、「自由」という言葉も頻繁に出てきます。おそらく、来る前に聞いていたことと反対の自由な日本人の姿を見たのでしょう。下層の農民や上役に仕える武士にすら自由がある、と述べています。この点についても、戦後の教育はおかしいです。たとえば二宮尊徳は農民の出ですが、頼まれて武士階級の指導者になっています。オロモルフの曾祖父は旗本でしたが、家系図を見ますと、一家の婚姻相手は、農村・商人・学者などいろいろです。江戸に日本初の私立図書館をつくった小山田与清は、農家の生まれです

との言葉は自分も同感です。どうしても戦後の教育はどこかにマルクス史観が入っており、階級闘争で歴史を語ろうとする余り、無理に「虐げられた農民・庶民」を描こうとしているように感じます。とは言え、今の日本が〜の部分は首肯しかねます。もし今の日本の社会が悪くなったとすれば、それは一にも二にも日本人そのものに原因があります。もっとも、改善点は色々とあるにせよ、今の日本は歴史上希に見る素晴らしく住み心地の良い、安全で豊かな国だと思っていますが。
いずれにせよ、江戸時代の日本を客観的に見ることが出来るだけでも、この本を読む価値は十二分にあると思います。
とても素晴らしい本なのですが、なかなか手に取る機会も持てず、自分も図書館でようやく手にすることが出来ました。もし機会があれば、是非読んで貰いたい本です。素直に日本という国について読むことが出来る、大変素晴らしい本だと思います。

「「江戸参府随行記」を読んで」に1件のコメントがあります

  1. 澁澤敬三、宮本常一、柳田国男、南方熊楠
    日本人を語る上でこの4人の著作と交流には
    ずっと惹かれています。
    宮本の「忘れられた日本人」は江戸時代の農漁村の
    正直で思いやりのあるこころが描かれています。
    昨今のイスラム教とキリスト教の文明の対立の悲劇との
    対照です。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください