国家の安全保障と緩衝地帯

ウクライナ情勢はきな臭さを通り越して、遂にロシアの軍事行動が報道され、ウクライナからロシアの外交官が全員退去したなど、今まさに戦争が勃発しようとしています。

こういう時の日本経済新聞は、やはり読み応えがあり、その記事に対して有識者がコメントを寄せるのもまた興味深いです。

上記の記事は1ヶ月程前の記事ですが、今の時点で見ると誰が実際に現実に近い見方をしているかどうかがわかりますね。きっとミュンヘン会談の時もこんな感じの評論だったのではないかなと思います。ちょっと前に第一次世界大戦を経験していましたから、とは言ってもヒトラーも戦争をするほどのリスクは侵すまいと思う人も多かったのではないでしょうか?ミュンヘン会談については下記の通りです。

自分が思うには、今回の行動を見るにはブラフだ、経済だ、プーチンは強気だ、寧ろ欧米の陰謀だとかで見ては情勢を見誤ると思います。

では、なぜロシアはこれほどまでにウクライナにこだわるのか?

大前提としては「国家というものは、国家の安全保障を何よりも優先する」と言う事だと思います。ここで言う「安全保障」とは読んで字の如く、自分の国が攻めこまれない、他国の意思の強要を受けないための安全をどのように構築すべきかということ。

他国の意思の強要を受けないようにするためには、他国の意にそぐわない決定をしても、その他国が自国の死命を制することが出来ない手立てを構築する事です。

これは主として2つの分野での安全保障策が求められます。
1)直接攻めこまれないような体制づくり-気に食わないことをしたら、攻めこまれて占領されてしまう。そうなると、自国の意思を貫徹出来ないわけです。今回で言うとウクライナがNATOに加盟したいという意思を、ロシアが占領する事で意思を貫徹出来ないようにしています。
2)他国からの制裁が生じても国家運営が出来るようにしておく-気に食わない事をしたら、その国が成り立たなくなるようにされてしまう。戦国時代の兵糧攻めを想定するとわかりやすいです。戦前の日本が中国で権益を主張したときに、アメリカが資産凍結と石油を禁輸という措置を講じました。これによって日本は軍事力を維持できないと想定され、これでは成り立たないということで、ある意味国家的暴発につながりました。

この中で1)を考えると、強力な軍事力を持つ事がまずは考えられますが、強力を越す超強力な軍事力を持つところが出てくるかも知れません。そうすると、国が大きくなればなるほど、同じ方策を考えます。

それは自国の周囲に緩衝地帯を設けて、攻めて来られても、まずはその緩衝地帯でくい止めたり時間稼ぎが出来るようにしておくわけです。こうしておけばどんなに国際情勢に変化が生じても、どうにかなるのでは?となるわけです。

ロシアはそもそも、自国に何度も攻めこまれている国でもあります。
1)モンゴル帝国による占領時期
2)ナポレオンによるモスクワ占領
3)ナチスドイツによる独ソ戦によって、キエフ(今のウクライナの首都)が陥落し、クレムリンまで十数キロ先までドイツ軍が迫る

こういう経験をすればするほど、緩衝地帯を持って、今度こそ攻めこまれないようにしたいということなんでしょう。

ソ連崩壊後、ロシアの欧州側の国が分離独立し、NATOの範囲もどんどんロシアに迫ってくる。更に、ウクライナがNATOに入ってしまうと、自国のすぐ近くに自国を攻撃できるミサイル等が配備されてしまう。それはゴメンだ。(北方領土交渉が安倍政権時に行われていた時もプーチン大統領は、返還したとしてもそこにアメリカのミサイルが配備されない確約を出来るかを問うていました)もしウクライナがNATOに加盟してしまえば、その後に何とかしようとしてウクライナに攻めこむと、NATOの集団安全保障が発動され、二十数カ国を相手に戦争をしなければならなくなる。でも、今だったら、それなりの制裁は想定されるが、既成事実を作ってしまえば、あとはどうにか制裁による経済的不利益を乗り越えればどうにでもなる。今コロナ禍で欧米諸国が体力を失っているところで、かつイラク・アフガンの後始末の状況から、アメリカも直接的な軍事行動は起こさないだろう。対中国もあるし。そんなところから、今回の行動を起こしたように思えます。

そんな勝手な!という考えも至極真っ当です。でも当初に書いたように、この行動は他の国も取ろうとします。代表的な例としてアメリカと日本を挙げましょう。

○アメリカ
アメリカの場合、想起されるのはキューバ危機です。


ざっくり言うと、米ソの冷戦時にキューバ革命が勃発し、ソ連製の核ミサイルがキューバに配備される計画が判明した事から、アメリカとソ連が戦争の一歩手前まで行った事件です。

アメリカとしては、今まで北米大陸・中南米大陸の国々は親米のため、寝首を掻かれるような心配は無かったわけですが、唐突にアメリカのすぐ近くのキューバが共産主義化して、アメリカをいつでも核攻撃できる状況に陥りそうになったわけです。
民族自決権と言って、その国の決定はその国民の意思で行われるべきだとなっていますが、実際に自分の国に害が及ぶ事になったら別です。全力でそれを阻止しようとしたわけです。
ちなみにこの時期、ソ連は西ドイツに配備されている核ミサイルの射程圏内に入っていました。当時のソ連の指導者であるフルシチョフ氏は、アメリカも同じ恐怖というか居心地の悪さを味わうべきだと思っていたそうです。
結局、キューバのことで本当に核戦争を米ソが争うのか?とソ連指導部で再検討し、ギリギリのタイミング(余りにギリギリだったので、ラジオ放送でミサイル基地建設断念を伝える)で戦争は回避されました。

○日本
明治の日本はなぜ、朝鮮半島を併合しようとしたのか?
別にそこから資源を搾取し、そこに住んでいる人たちの奴隷化を目論んだわけでもなく、
日本の優れた国家運営で、遅れている朝鮮半島を近代化しようとしたわけでも無いでしょう。

当時の仮想敵国であった清(旧中国)、ロシア帝国から攻めこまれる事態を少しでもくい止めるための緩衝地帯確保が主な理由であったと思います。
実際に釜山から対馬はすぐですし、長崎や島根も本土もすぐです。
しかしながら当時の朝鮮、大韓帝国はそこまでの軍事力を保有しておらず、何かあったら日清戦争前であれば清に、日露戦争前であったらロシアの勢力下にすぐにでも入りそうな状況と考えていたのでしょう。だからこそ、当初は朝鮮半島の独立を両国に求め、相手がその要求を呑まないことから戦争に訴え、そして勝った事から特別な勢力圏→併合という道を歩みました。

以下を指摘している論説を寡聞にして聞いた事が無いように思いますが、これは実際に功を奏しました。何かと言えば昭和20年8月9日、日ソ不可侵条約を破棄され、ソ連軍が対日参戦した時です。そこに実際に住んでいた方々にとってはたまったものではないでしょうが、緩衝地帯として満州国での戦闘の段階で戦争が終結し、朝鮮半島にソ連軍が来る事はあっても、大陸ルートで日本本土には遠く及びませんでした。

こんな具合で、正義か悪かはともかく、今回のロシアの行動は、国家の生理的欲求に忠実に従った結果と思えるわけです。

では、それは仕方の無い事と考えているのか?と言えばそうではありません。そうなってしまうと、安全保障を語る事が出来るのは軍事強国、資源国家のみとなり、明らかに国家間に優劣が生じてしまいます。いわゆる単純なる弱肉強食の世界です。
これを食い止めるために、第二次世界大戦後の世界は多国間による集団安全保障体制を編み出したわけです。これであれば、個別の国の強弱のみが安全保障を左右するわけでは無くなりますから。

今回のこの事態、ロシアの国家的な生理的欲求の本質を理解した上で、どのようにして集団安全保障体制を維持して事態の先鋭化を防いでいくのか。これが問われている訳です。当然、日本も部外者ではありません。所謂平和ボケで無い、本質的な議論と対応が行われる事を祈っております。

(番外編)
ちなみに上記を踏まえて、今の日本の状況は・・・、
1)直接攻めこまれないような体制づくり
・そもそも緩衝地帯は無いし、そんなことを国際社会に認めさせるような体制になっていない
・仮想敵国と目されるC国やN国からはミサイルの完全なる射程圏内にいますが、日本独自の反撃能力なし。
・今のところ、相手が攻めようとした時の躊躇する要因は、それがアメリカとの全面戦争に繋がってしまうのでは?という想定のみ。

2)他国からの制裁を受けても、成り立つ国家運営
・エネルギー自給が圧倒的に少ないのは寧ろ昭和初期以上の状況。あの頃は石炭の自国生産が大きくあった。当時の問題は石油。今は石油も変わらずだが、天然ガスも。原子力を一度国内に入れれば、割と長期間使えるが、昨今の情勢でほぼ利用せず。
・エネルギーの供給ルートとして太平洋側はまだしも、日本海側や南シナ海側はC国の勢力圏とどんどん被るようになり、有事の際にどれほど機能するのか?また、C国は太平洋側での活動も増やしている模様。
・つまり制裁や緊張状態に陥ったときの国家体制が脆弱。

なんとも・・・。

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