弱者報道が社会の木鐸たるマスコミの使命?

最近は派遣切り、非正規雇用社員の問題が盛んに報じられています。
身分が不安定な方々が、大企業の都合により一方的に解雇されるのは何たることだ!と。
先行き不透明の人々はネットカフェで寒さをしのぎ、財布の中は26円しかないだとか。
まさに「弱者」を取り上げることこそが今の使命だ!と考えているかのごとく。
なんていうのを聞きながら、またマスコミの悪い癖が始まったなあと思っていたら、早速危惧していたニュースが。

パナソニック電工、国内工場を3分の2に集約(from NIKKEI NET)

 パナソニック電工(旧松下電工)は国内の生産体制を再編する。2010年度までに浴槽や建材など3工場を閉鎖し、既公表分と合わせて国内工場数を15から10に集約。従業員も住設建材事業全体の8%にあたる約1000人を減らす。景気後退で住宅関連市場の縮小は避けられない見通しで、生産体制を効率化し収益力を高める。
 閉鎖するのはシステムバスや住宅内装向け建材の生産工場など3拠点。すでに公表した群馬、奈良県のキッチン工場と合わせ5工場を閉じる。新たに閉鎖する工場は現在選定しているが、地域ごとに重複する生産品目を解消し生産性を高める。

派遣社員切りが法令に違反する形で行われていたら、それは大問題です。非正規雇用にしても、内定取り消しにしても同じです。しかし、法令に違反するわけでもないのに、ここまで実名を挙げられて叩かれてしまうと、企業としては当然の行動として、海外の生産を増やそうと考えるでしょう。だって、たとえば中国の工場を閉鎖してここまで叩かれますか?
今、工場の工員さんたちの競争相手は国内他社の工員さんではなく、海外の工場で働く工員さんたちです。賃金水準がそれでなくても高い日本国内で、それでもなお生産するのは
1)意思疎通の容易さ
2)日本国内で販売するときの運送コスト
3)企業秘密の保持
4)工員の知的水準の高さ
などが挙げられると思いますが、それにしても絶対的な要因ではありません。結局価格競争力が企業にとって必要だから。その方策のひとつとして良くも悪くも非正規社員の活用、アウトソーシングがとられていたわけです。
そこに考察を加えることなく、ただ大企業の横暴で解雇しているとか言われてしまうと、結局工場の海外移転→国内産業の空洞化につながってしまう恐れが多分にあると思うのです。一番大事な「雇用」が失われてしまうのです・・・。
生活困窮者に対する対策は行政が第一義的に取り組むべき問題でしょう。企業としてはまずは生き延びなければ何にもなりません。今GM・クライスラーを批判し、だからアメリカはだめだとかやっている人もいますが、レガシーコスト、すなわち労働者たちに対する過剰とも思える施策がどれほど足枷となっているかわかっているのでしょうか?一方ではGMを批判し、一方ではキャノンを批判する。それも同じ人が。悪い冗談にしか見えません。
上記のニュースも住宅業界の需要収縮のみを理由に挙げていますが、日本での労働市場の硬直化を再認識したことも、工場を集約することを決めた大きな理由のひとつだと思います。
自分としては
1)生活困難者に対する施策を政治が打つ。宿舎の問題、次の仕事の問題に対する施策です。
2)企業の生産活動が収縮しないような施策を打つ。法人税の問題、新規雇用に対する援助などですかね。
3)マスコミには今の世界経済で何が問題なのか、日本の抱える問題は何か、どうやったらそれを打破できるかを考えさせてくれる報道を期待したいです。
今の報道はただ困難な人を見せ付けて、いわゆるインパクトを与え、視聴率等を稼ごうとしているようにしか見えません。かつて耐震偽装問題でも同じようなことが繰り広げられ、結果として建築業界の急激な市場冷却、施主も含め追加コストの発生、天下り先の増加といった、なんとも言えない状況となりました。
多分そこを滅茶苦茶にしようという意思はないのでしょう。しかし、意図せずして事態をただただ悪化させてしまっているように見えてなりません。
自分たちの持っている影響をもう一度自覚して、真の「社会の木鐸」になってほしいものです。
ただ弱者を取り上げ、それをショッキングに見せているだけのものは、バラエティ番組でしかないと思うのです。

「弱者報道が社会の木鐸たるマスコミの使命?」に4件のコメントがあります

  1. アジア諸国は日本も含めて景気浮揚策、雇用対策というと公共事業への投資が第一に来ますよね。
    公共事業発注→建築土木市場中心→所謂日雇い労働者の雇用を創出→消費の底上げ→メーカ企業の収益回復→従業員の報酬増→消費の更なる底上げ・・・
    という長期サイクルを狙ったものだと理解しています。
    政府が発注元になって大きくお金を使うにはやはりコレが一番なんでしょうか・・・
    しかしあの会社を一つの家族に見立てた様な家族経営的社風がウリだったパナソニックが、こんな決断をしなければならないとは、現在の事態は深刻です。
    日本の失業者率も10%を越えてしまうような事態もありそうな気がしてきています。生活のために会社にしがみつかなきゃならない、なんてのはネガティブ目標ですのでちょっと気が重いですねぇ・・・
    そういえば今年上半期に散々追究していたギョウザの件はどうなったんでしょうね・・・最近捜査に進展が無いにしても、マスコミの飽きが早かったですよね、あの事件は。

  2. 父は戦後3年、戦犯追及を恐れて九州に隠れていました。銀行から戦犯の恐れはないと誘われて最初に赴任した名古屋でトヨタ、ソニーと出会いました。軍の戦略の間違いが国を滅ぼした。企業を育てることで国を再建する。当時ボロ会社だったトヨタ、ソニーに貸し付けることは行内でも議論を呼び、それでも踏み切ったのでした。父は貸し付けた会社の株を買い、それを売らず持ち続けることで自分の目が正しかったかどうかを確認し続けました。結果として退職するとき、どれくらいの価値があったのか、父は語りません。
    私は10年前、経団連の近くのシンクタンクに出向し、企業価値を研究していました。
    会社に帰って報告したのはキャノンでした。愛車はトヨタ、プリンターはキャノン。
    両社の製品は際立って優秀で、それゆえ、私は買い替えることが殆どなく、両社にとっては、好ましからざる顧客です。その両社が相次いで経団連会長に就任したことを喜んだ私にとって、リーマンショック以後の両社の対応は、少なからずショックでした。日本の従業員を大切にすることが、まず社是であったからです。内部留保の取り崩し、役員削減、役員報酬カット、管理職の給与カット、そのあとにやむをえなければ・・・という姿勢が見えないのは残念です。

  3. げんきさん
    コメントありがとうございます。
    ある部分までは、新しい記事で返信させていただきました。
    マスコミも現象ではなく、PDCA並に最後まで報道してくれると良いですね。餃子はその後、確かにどうなったのでしょうか?

  4. 文武両道さん
    コメントありがとうございます。
    ある部分まで、そして今までの書き残しは新しい記事に記載させていただきました。
    御尊父の人生、まさに最近読んだ堀さんと重なります。そしてその後、「軍の戦略の間違いが国を滅ぼした。企業を育てることで国を再建する。」と考えられたとの文を読み、心が震えました。
    国の指導的立場の人びとは、やはりノーブレス オブリージュが必要ですよね。今、それを感じさせてくれる人って誰なんでしょうか?
    新しい記事では、いろいろと申し上げてしまい、申し訳ございません。でもこうやって議論させていただけるのも、亦楽しからず哉とお感じいただければ幸いです。

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