中国の目指す「覇道」

誰もが認めざるを得ない中国の大国化と、その影響。
この流れを考えさせてくれる記事が日本経済新聞に立て続けに掲載されていたので、ちょっとまとめてみたいと思います。
もとはこの記事を読んだ時に感じたことです。

トヨタ、ハイブリッド車の基幹部品を中国生産(9/4 日本経済新聞)
 【天津=多部田俊輔】トヨタ自動車は3日、中国でハイブリッド車(HV)の基幹部品であるモーターや電池などを現地生産する方針を明らかにした。主力車種である「プリウス」など環境車の走行性能や燃費を左右する基幹部品を、海外で生産するのは初めて。トヨタは世界最大の自動車市場となった中国では販売が苦戦している。生産の現地化を一段と進め、シェア拡大を狙う。 (続きはこちら

ハイブリッドの基幹技術と言えば、トヨタの技術力の源の部分。今まで頑なに拒んでいたはずでした。それに対して上記の記事にも紹介されていましたが、

中国で生産する海外の自動車メーカーに対し、中国政府はモーター、電池、制御システムの3つの基幹部品のうち、少なくとも1つを現地生産するよう求めている。外資規制草案は、合弁生産会社の中国企業側の出資比率を51%以上にすることを条件にしている。

これは当然に技術流失の危険を伴うもので(新幹線騒動を見ていても)、

独フォルクスワーゲンや米ゼネラル・モーターズなども中国で環境対応車の現地生産計画を表明している。ただ、基幹部品の現地生産については技術流出のリスクがあるため、明言を避けている

わけです。それでも、なぜトヨタがこれを決断したのか?自分はこの記事を想起していました。

中国当局「トヨタ車、ブレーキ破損で死傷事故」
メディアは「リコール拒否」と報道(9/1 日本経済新聞)
(前略)
同総局は29日、記者会見を開き、地元メディアに自動車など製品の品質について発表。中国での自動車のリコール(無料の回収・修理)状況についても報告し、完成車メーカーの中ではトヨタだけを名指しした。
記事はこちら

つまり、中国は決定的な脅しをかけたのでしょう。HV技術の基幹技術を中国国内で生産し、更に合弁で中国企業に技術を開示せよと。そうしないと、中国政府はずっとトヨタを品質問題でマークし続けると。
トヨタとして、この全世界的な不況、いわゆる先進各国での需要の飽和などを考えると、中国市場を失うことは戦略的にあり得ない。なので、泣く泣く虎の子技術を中国で生産することを表明せざるを得なくなったとしか思えません。
これを自分からの視点で道義的に非難するのは容易です。でも、それでいいのでしょうか?
中国のオピニオンリーダーであり、影響力も大きい閻学通氏のインタビューも今朝の日本経済新聞に掲載されていました。最近の中国の考え方の一端を見せてくれるような内容です。

中国、同盟広げ「極」担う
中国清華大の国際関係研究院長 閻学通氏 国際秩序、乱の時代
安保提供、米と格差 衰退・日本 政治に原因(9/4 日本経済新聞)
記事はこちら

要点を挙げますと
・世界は米中の2極体制に向かっている。
・国力を定義するのはハードパワーだけではない。同盟国との戦略的な友好関係も力の源泉。
・米国は世界の70カ国以上と同盟・協力関係
・中国が米国に並ぶ超大国になるには、周辺国との戦略的な同盟関係を強化しなければならない
・(同盟関係を築くには)周辺国に安全保障を提供することだ。経済的な結びつきがいくら深くても安全保障の連帯にはかなわない。
・(多くの国が米国と同盟関係を結ぶのは、自由や民主主義という価値観を共有するからではとの問いに対して)それは典型的な西洋型の解釈だが正しくない。米国がどこよりも多くの同盟関係を持つのは、どこよりも出費して安全保障を提供しているから。
・(大国の形として)『専制』と『覇権』と『王道』がある。中国が目指すのは人情ある権威とも言える『王道』。国際的な基準、ノルマを順守する。同盟国と仲良くするだけでなく『徳』によって非同盟国も味方につけていく。
・今の外交方針は永遠に先頭に立たないとの立場だ。これでは世界の疑心が深まるばかり。
・とは言え、鄧小平の「韜光養晦」はまだ経済力が付いていない時代の頃の戦略。世界2位になった今の時代には適さない。
・強い政治とは何か。人々が幸せであることだ。人を幸福にするのはお金ではなく、フェアで公正な社会だ。
・西洋型の自由民主主義は自由選挙と表現の自由さえあれば、たとえそれが混乱や貧富の差や民族間の衝突を生んだとしてもかまわないとする。結果よりプロセスの重視だ。私は結果を重視する。民主主義は社会秩序とセットでなければならない。秩序のない民主主義を混乱といい、民主主義のない秩序は全体主義と呼ぶ。
といったところです。体制批判を一切許されない国での発言なので、丁寧に読まなくてはいけませんが、彼自身も「今の外交方針は永遠に先頭に立たないと」と言っているように、今の中国は覇道を目指していると見ており、それよりは『王道』を目指すべきだと思っているのでしょうね。ただいずれの場合でもお金があって、安全保障が成り立ってこその大国だと思っていることには変わりないでしょう。
いずれにせよ、今の中国は指導層と国民がまだ分離している状態です。なので、国民を指導的立場の人たちが導き、守らなければならないと考え、そこに国民一人一人の自我を求めているわけではないのです。だからこそ、体制の安定を保つことを優先しているのだと思います。
こんな記事もありました。

鉄道事故批判の北京紙2紙、共産党管理下に(9/3 日本経済新聞)
浙江省温州市での高速鉄道事故を巡り、当局の指示に反して鉄道省の対応に批判的な論調を展開していた北京の地元紙が、3日から北京市共産党委員会宣伝部の直接管理下に置かれた。
記事はこちら

つまり整理すると、
1)中国は国が大国になることが、国民の幸せと見定めており、一人一人が自主独立の人となることを求めていない。
2)大国になるには経済力を付け、軍事力を高め、同盟国に安全保障を与えることだが、まだそこまでには至っていない。
3)なので自国の膨大な人口による大きな市場と、経済発展で得た資金を使って、より優位となるような戦略を立てている。つまり、
4)自国の大きな市場に参入したいのなら、そちらも何かを寄こせと要求する。トヨタはこの形で技術を求められた。
5)手持ちの膨大な資金を使って、相手国の困っているところに資金融通し、見返りに何かを要求する。特権的な地位とか、より強固な外交関係の構築とか、資源の優先的な配分とか。
6)そうやってより経済を発展させ、自国の軍事力も発展させ、国際関係での優位な地位を築く。そうやって作り上げた発言力で、主張すべきことは主張し、同盟国を増やし、アメリカとの二大国化を目指す。
これはやはり『王道』では無く、『覇道』を目指しているやり方だと思います。ただ、そういった戦略で向かってきている中国に向かっていたずらに正義だとか民主主義の価値観だとかを振りかざしたりしても仕方が無いわけです。中国からすれば軍事力を持たない日本は大きな問題では無く、何かあれば歴史問題でも振りかざしながら少々強硬に対応すれば、相手は屈せざるをえないと見透かしているように思えます。それに加えて政権が不安定である限り、「斜陽国家」とみなし、せいぜい有用な技術をいかにして自国に転用するかに価値を見出しているように思えるのです。今回のトヨタとか、ちょっと前の新幹線もみんなこの文脈にあるのではないでしょうか?
であれば、どうするか?
究極的には日本が再軍備をし、中国としても無視できない防衛力を整備し、企業の国際競争力を高め中国市場に頼らない体質作りを行い、世界各国とも協調し資金援助等も行い中国の影響力を削ぎ、その上で戦略的互恵関係を結ぶしかないのだと思います。
ないしは、中国国民の自我の確立を促し、一人一人が尊重され、また相手も尊重すべきだという価値観を、共有できるようにすることなのですが、こちらはさすがに内政干渉にもつながるのでなかなか難しいでしょう。
とにもかくにも中国は戦略的に行動します。対峙する日本が戦略的に対応出来ない限り、閻学通氏のような人に「日本は世界2位の地位を失ったばかりで心配するのは理解できる。」と半ば小馬鹿にされたような物言いをずっと受け続けるしか無いのだと思います。
ここはやはり日本の政治家の奮起を祈るしか無いですね。

「中国の目指す「覇道」」に6件のコメントがあります

  1. 外務大臣に長島君が起用されないのは残念!
    民主党の良さは良質な専門家が各分野にいること、
    その専門性が活かされず派閥の論理、内向きの均衡だけに偏った人事、
    残念です。

  2. 中国については徳川幕府と同じ「人民の敵」とずっと感じていましたが、
    政治は独裁、経済は自由という使い分けが結局中国の一人勝ちを可能に
    しているのでは、という気がしてきました。
    国民は目先の利害で選挙し、政治家も国民に選ばれる以上不人気な
    政策はできない。
    中国は為替は固定、輸出はラッシュ、国民の批判を禁じ、
    おまけに香港やマカオでは世界の金持ちの金を吸収。
    武富士の遺産が香港に流れ、ティッシュの御曹司がマカオで賭博・・・
    日本の債務残高1000兆円、
    いよいよあと3年で国債も日本で消化できなくなるとか
    増税ラッシュで金持ちがそろそろ日本から逃げ出している・・・
    TPPで兼業農家は板ばさみ・・・
    しかし板ばさみの人が多ければ最適解もでるのかも・・・

  3. 米韓は日本建設市場に狙い?
    ずっと狙われてますが・・・
    東北の復興需要も・・・

  4. さて突如出てきたオリンパスの不祥事。
    おまけに監査法人と証券会社も消滅するかも・・・
    金融、監査法人を狙うアメリカの覇権の臭いも?
    正論はわかるのですが・・・
    あの雑誌の編集長、日経を経て選択の編集長だったとか、
    独り勝ちです。

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